第21話俺と後輩とお泊り
今年中に静香に告白をする。そう決めた俺は深夜の自室で頭を悩ませていた。そしてその頭を悩ませていた理由は自分の思いだった。
自分自身が本当に涼風静香を好きかどうか。正直俺は、他の学校の男子みたいにあいつと男女的交際をしたいとは微塵も思ってない。きっと俺は今と同じような関係でいたいと思っている。だが果たしてこれは、本当に恋人になりたいと言えるのだろうか。
「確かに。俺は静香が好きだ。たぶんこれは恋だ。だけど」
無条件であいつを助けたいと思ってしまう。これは恋なのか? それともただ後輩思いなだけか?
きっと俺は静香以外に仲の良い後輩がいたとしてもそいつの悩みは無視する。だが、きっとそいつが本当に泣きついてきたら助けたいと思ってしまうかもしれない。
結局俺は――
「好きと恋の違いが判らないなんて、小学生かよ」
夜遅く、俺はベッドに寝転がったまま天井に手を伸ばし、そんなことを呟いた。
自分ではこの気持ちが恋だと十分理解している。だがしかし、頭の中ではその理解に対する理由を求める声もあった。
昔から俺は何かにつけて理由を求める癖がある。だからこそ今回もそれを恋だと理由付ける根拠の様なものが欲しいのだろう。
いつも悩んで出した答えは間違えだった。そして今の俺になった。ならいっそのこと今すぐに告白をしてしまえばいいのか? それも違うような気がする。今回は俺だけじゃない。俺と静香の問題だ。ならこれは俺のことだけを考えているだけじゃダメなんだろう。
俺がそんなことを考え頭を悩ませているとスマホがラインの通知を報告した。
「こんな夜中に一体誰だよ」
俺がそう言って画面を確認するとそこには現在、俺の頭を悩ませている後輩の名前が表示されていた。
*
「それで? こんな時間にどうしたんだ?」
俺はこれから俺の部屋に着たいとラインを送ってきた静香を玄関まで迎えに行き、自分の部屋へと通すといつもの様に椅子に座り、そして静香をベッドの上に座らせ話を進めた。
「その……先輩に頼みがあるんです」
「何だ? 言ってみろよ。今の俺はだいぶ疲れてるから大抵の頼みはOKするぞ」
「わかりました。なら、迷わずにいます。今夜は先輩と一緒に寝させ――」
「断る‼ 今すぐ自分の家に帰って大人しく寝ろ‼」
この静香の頼み事には流石の俺も疲れが吹っ飛び、つい夜中なのも忘れて大声で叫んでしまった。だが仕方がないことだ。なぜなら、自分が好意を抱いている相手が自分から一緒に寝ようと言って来たのだから。
*
「どうせ、お前。怖い夢でも見たんだろ」
電気を消し、ベッドの上に横になっている静香の隣で横になった俺はそう言って静香を茶化した。すると静香は少しだけ文句を言うと開き直ったかの様に言った。
「良いじゃないですか。昔から怖い夢を見たら先輩と寝るのは、私にとっては当たり前のことなんですから」
「だとしても。一応、高校生になったんだからそろそろ我慢しろよ。それで? 今回はどんな怖い夢を見たんだ」
俺が尋ねると静香は無言で、ベッドの外側に体を向ける俺の背中に抱きついてきた。どうやら今回は俺に関する怖い夢だったらしい。
静香は昔から怖い夢を見る時必ずその夢のキーパーソンとしてこいつに近しい人間が登場する。そしてその相手に会うと必ず抱きついてしまう。こいつには昔からそういう癖があった。
それを理解している俺は静香が背中に抱きついている間は何も言わないことにした。こいつが抱きついているとき。それは多分、その相手の無事を確認しているのと自分を落ち着けること。その両方を行っている時だと思うから。
しばらくして静香が俺の背中から離れると俺は振り返らずに聞いた。
「落ち着いたか?」
「はい。先輩に抱きついたら少しだけ落ち着きました。これならもしもまた怖い夢を見ても安心です」
そう言った静香の声は確かに先ほどとどこか違った。だがしかし同じ夢を見てしまうかもしれないと不安なのだろう。彼女が発する声はどこか弱々しかった。
「仕方がない。手ぐらいは握ってやる」
俺がそう言ってうつ伏せになると決して静香の方は向かず、左手だけを差し出した。そしてそれに対して静香は右手を俺の手に重ねる。
「先輩の手って案外暖かいんですね」
「俺は眠いとそうなるんだよ」
俺がいつまでも起きている静香にそう言って寝るように促すと静香は渋々という感じで俺の言葉を聞き、その数分後にはあっさりと眠りについた。
だがしかしこんな状況で俺が眠れるはずもなく。
うっ。もしかしてさっきの状況ってこいつに告白する絶好のチャンスだったんじゃないのか?
そう思い、自分の失敗に落ち込む俺は顔を一度だけ静香の方へ向けた。そしてそこでつないだままの手と意中の相手の寝顔を確認すると先ほどまで考えていた悩みが嘘のように消えた。
「やっぱり、そうだよな。迷うことはなかったんだ。俺はお前が好きだ、静香」
俺はぐっすりと眠る相手に絶対に聞こえないはずの告白をした。
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