第8話俺と後輩と恋愛
「なあ、静香」
「何ですか、先輩」
「俺帰ってもいいか?」
「ダメに決まってるじゃないですか」
放課後。俺はなぜか静香と一緒に校舎裏にいた。
「そもそも俺には関係ないだろ。それにお前だって何度も俺とカップルのフリをするのは嫌だろ」
俺が隣に立つ静香にそう言って解放してもらえるように頼み込むも、静香はまるでこの状況を楽しんでいるような顔をしていた。
「大体、大人が子供の色恋沙汰に口を出すのはどうかと思うんだ」
「先輩と私の年齢差は一歳ですよ」
「気持ちの話だ。実年齢こそ、十六歳だが。俺の心的にはもう既に悟りを開いた年寄りの気分なんだよ。出来れば、面倒ごとには巻き込まれたくないんだよ」
隣に立つ静香は、昔から俺がそう言いつつも静香の頼みを断ったことがない所為か、まったく気にしていない様子だった。
「それで? 相手はまだなのか? そろそろ待ってるのも飽きてきたぞ」
俺は大きな欠伸をすると本心からどうでもよさそうに呟いた。確かに静香なら、どんなイケメンから告白されてもおかしくない。だけど俺は普通のイケメンがこいつを落せたところを一度も見たことがない。
「そもそもお前はあれだろ。恋愛とかに興味がないだろ」
静香は高校に入ってからほぼ毎日の様に告白され続けているが、一度も異性と付き合ったことがない。それどころか最近は、俺と一緒に居ることが多い所為か上級生などからの告白はめっきりと来なくなった。
本当に二、三年には俺のどういう悪名が広まっているのか知りたいところだ。
「言っておきますけど、先輩。私は別に恋愛に興味がないわけじゃないですよ。寧ろ興味津々です」
「ふーん。そういえば前から聞きたかったんだけど、お前って好きな奴とかいるの?」
「ふぇ?」
「ふぇじゃなくて。俺の質問に答えろよ」
「な、何でいきなりそんなことを聞いてくるんですか⁈」
「いや、この前霧道の奴に言われたんだよ。偶には先輩らしくお前の恋愛相談に乗ってやれって」
本当はこいつに好意を抱いている身としては、全然協力したくないのだが。確かに霧道の言う通りたまには先輩らしいところも見せないといけないかもしれない。
「それで? お前が好きな奴って誰? クラスの奴。それとも二年か三年どっちだ」
俺が直球で尋ねると静香は少しだけ困ったような顔をし、だけどどこか嬉しそうな顔もした。
「……い、一応二年生です」
静香はその意中の相手の学年を皮切りにし、少しずつ特徴を伝えてきた。
身長は自分より少しだけ高く、猫背で。基本的に猫背。そして性格は基本的に面倒ごとを嫌う人間だが、人に頼まれると断れない性格。
「お前、本当にそんな奴が好きなのか? 正直に言うけど、そいつの性格相当面倒だぞ」
俺もその静香が特徴をあげたやつと少なからず共通点があるからわかるが、そういう奴は基本的にストレスをためている可能性が高い。因みに俺は大丈夫だ。適度に友人を痛めつけ、適度に後輩をからかうことでストレスを解消している。
「そんなことありませんよ」
俺が静香の思い人に対して悪印象を抱いていると静香が俺の言葉を否定した。
「確かに時々、何て面倒な人だと思う時もあります。ですがその人はただ、口下手で。自分の気持ちを話すのが下手なだけなんです」
なぜだろう。今の言葉は胸に鋭く突き刺さった。いや、俺は違うはずだ。確かに自分の気持ちを他人に話すのは苦手だが、静香とはこうしてほぼ本音で会話をすることが出来ている。
「それにその人は確かにお人好しで。怒るべき時に怒らなかったり、肝心なところで逃げ出すような人ですけど、私はそう言う残念な部分も含めてその人のことが好きなんです」
「お前、男運ないな」
「自覚してます」
「もしもそんな男と将来付き合ったら苦労するぞ」
「大丈夫です。もしも喧嘩して一度は別れたとしても私たちは運命でつながっているはずなので、また付き合います」
「じゃあもしもその男に他に好きなやつがいたらどうするんだ?」
俺のこの質問は果たして誰の為だったのか。だが、静香の為の質問ではないのは明らかだったかもしれない。
「それはないんじゃないでしょうか。確かに自分の気持ちが恋愛感情だと気づいていない可能性はあると思いますけど、私を好きじゃないってことはありえないと思いますよ」
自分を好きじゃないってことがありえないなんてこいつはどれほど自信家なんだ。正直俺は、自分に足りないものがはっきりとしている分。こいつが自分の事を好きだという自信はない。それ以上に自分が異性として見られているのか不安だ。
「ですが、一番困るのはその相手が自分の事を異性として見てくれているかどうかですね」
静香はまるで俺の心を察しているのか。俺と同じ不安を口に出した。
「確かに。優しく接してくれるのは嬉しいのですが、まるで妹みたいに見られていてたまに怒りたくなる時があります」
こいつを妹扱いね。俺以外にもこいつのことを妹扱いしているような奴がいたとは驚きだ。
「へぇ~」
俺はなぜか、俺以外の奴がそんな風に思われていることが無性に腹が立った。
「あれ? 先輩、もしかして怒ってるんですか? 焼きもちですか?」
早くも俺の態度の変化に気が付いた静香は、俺を煽りに煽りまくるとなぜか笑顔を浮かべていた。
「なんだよ、その顔は?」
「別にー。何でもないですよ」
そのしゃべり方はまるで自分は何もかもを知っていますと言う雰囲気を纏っていた。
その所為か、少しだけ居心地が悪くなってしまった俺はもう一度静香に尋ねてみた。
「それにしても相手が来ないなら、俺が彼氏役をやる必要もないよな。もう帰ってもいいか?」
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