第23話 織田信長、祭りに参上
そして時期は八月の末となる。京都駅からバスを使って会場となるホテルにやってきたコウ太と信長の二人。
移動には、東京駅からの新幹線を使用した。
その移動時間中は、このちゃん、もち団子さんを交えてのオンセに興じた。
遊んだのは、信長が興味を示してGMを担当した『シノビガミ』である。
“現代忍術バトルRPG”と銘打っており、PCは現代に生きる忍者となり、闇の世界でしのぎを削るというものだ。
特徴的なのは、時に真の使命が秘匿されたハンドアウトを渡される場合があることだ。この真の使命は他のプレイヤーには公開されず、内容によってはPC対PC、PVPがあり得ることもある。TRPGでPVPというのは、うまくやらないと不平等になって禍根が残るので舵取りが必要だ。
信長が用意したのは、本人曰く「軽めのシナリオである」とのことだった。『シノビガミ』のシナリオには、他にPCが対決することもある「対立型」、協力が前提の「協力型」、そして様々な要素がある「特殊型」がある。
PCたちはいろいろ疑惑に囚われながらも、密書を届けることに成功した。
届け主のNPCは、PCたちに密書が白紙であることを見せ、「全員合格である」と告げて終わった。
このちゃんのPCには「組織の不利を防げ」、もち団子さんのPCには「密書を探ろうとしたものを殺せ」である。
真相は、各勢力から代表の忍者を出し合って、忠実に任務を実行する者の選抜テストを行ったというものだった。
信長は、「まあ、このくらいはせんとな」とにやりと笑っていった。
さすが、天正伊賀の乱で伊賀者を根絶やしにしようとした張本人だけあって、忍者の使い方がエグい。
もちろん、このセッションは車内で通話すると迷惑行為になるから、セッションツールを使用したテキストセッションである。
準備運動にしてはちょっと重かったんじゃないかというオンセを終え、信長とコウ太は京都駅に到着。会場のホテルまでは送迎バスがでていた。
来る途中から、パンフレット片手に荷物を引く同胞たちが何人もいた。
皆、TRPGの祭りのために、全国津々浦々から集結してきた猛者たちである。
覇気とかオーラ力とか、ゲーマー同士ならわかる何かが満ちていた。
信長といえば、安土城に拠点を移してから、近江の庶民たちの火祭である
TRPGの祭りの気配を感じ取ってボルテージも上がっている。移動中も、一回オンセしただけでは収まらない気配を漂わせていた。
「ほう、なかなかの城構えじゃのう!」
信長は、扇子を広げて感心してみせる。
会場のホテルは、客室部分がふたつの円筒のようにそびえるツインタワー式だ。
ロビーに入ってチェックインし、カーニバル開催受付に行って参加証とカード式のルームキーを受け取る。
で、このちゃんと岸辺教授、もち団子さんや上洛軍議に参加した人たちの待ち合わせのためにロビーのラウンジで休憩する。
「まずイベントであるが……この“らいぶRPG”、コウ太も参加するのであろう?」
「でもいいんですか? このイベントって『第六天魔王を倒せ』ってタイトルなんですけども……」
ライブRPGというのは、多数の参加者が会場内各地に用意された卓を行き来するカーニバルのイベントだ。今回は復活した第六天魔王に従う闇の勢力と、これを倒そうとする光の勢力に分かれて競い合うことになっている。
信長は、他のプレイヤーと一緒に参加するため、申し込みもしてある。
「民草がわしを恐れるなど可愛いものではないか。一向宗や敵から見れば、わしなんぞ魔王に見えるであろうしのう」
愉快げに扇子で扇ぎ始める信長である。
下々のゲーマーが楽しむTRPGの祭りに水を指さすことなく、混ざろうとするのは史実の通りではある。
ただ、ライブRPGのシナリオ作成協力にシナリオ仙人の名があるのが気になった。
こういうオフィシャルの場にもシナリオを提供しているのだが、正体もよくわかってないネット上の人物なのだが、いいのだろうか?
すでに開会式に参加しようと、イベント参加者たちも続々と集まっている。
コスプレOKなので、キャラクターの格好をした参加者やファンタジー風の西洋甲冑、今回のライブRPGに合わせた当世具足風のコスプレも見かけられる。
「あれを見よ、鎧武者もおるではないか! コウ太よ、京にわしの鎧は残っておらぬのか?」
「あったとしても、国の文化財に指定されちゃうんじゃないですかね……」
実際、信長の鎧は現存していないという。一応、伝信長の鎧といわれるものがあるが、後世の作らしい。見つかったら大事である。
そうこうしていると、岸辺親子や信長の知り合いのゲーマーたちも集まってくる。
「あ、コウ太さんとノブさん、こんにちわー」
このちゃんは今日も元気で微笑ましい。
こういうとき、保護者がゲーマーだと一緒に参加できる。サツキくんやれのんちゃんの未成年は東京にいるはずだ。
「おお、こんにちは。この三日間、親子でTRPG三昧とは微笑ましいのう」
「いやいや、心乃花は私を放っておいて若いゲーム仲間と遊ぶようです。私は、昔のゲーム仲間と旧交を温めますよ。この日でないと会えない仲間もいますからね。部屋に荷物を置いてきますので、開会式でまた会いましょう」
岸辺教授は、一礼してこのちゃんを連れてエレベーターの方に向かう。
「信長さん、一休みできましたし、僕たちも部屋に行ってみましょうか」
「そうじゃな。物販に行けばまた荷物も増えるであろう」
物販スペースの開場まではまだ時間がある。
今頃、メーカーやホビーショップが出張販売所を設置している頃だ。
しかし、信長はここでもルールブックやアイテム類の“名物狩り”をする気でいる。
その物欲は、留まるところを知らないようである。
浮かれていたのか、二人を影から窺う視線には気が付かなかった。
じゃらり――。漆黒の六面ダイスを手の中で転がしたのは、本来なら東京にいるはずのサツキくんである。
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