075  咎人の罪Ⅴ

「教主様、錬成陣と魔法陣の真の扉の向こう側には一体何があるのですか? 私は魔導士ではありますが、錬金術師ではありません。魔法は何も代償を払わずに魔法を使うことができますが、錬金術師は錬成し、分解し、構築する。その物質が無ければ錬金術は存分発揮することができない。ましてや魔導士もまた、同じく、自分の属性の魔法以外は使うことができないと言った矛盾か、あるいは矛盾ではないのか、そんな生半可な立ち位置にあるわけです」



「中将殿、あなたはそれで何が言いたいのですか?」



 余裕そうに総司の話を聞いている。



「つまりは魔法と錬金術、今に置き換えるなら黒魔法、白魔法、賢者の石の三つ。死、無、生。なぜ、循環されるような三角になっているのか分かりますか?」



 総司はゆっくりと体を起こして面と向かってマーロスの前に立つ。



「それはその先の扉を開くために決まっているからだろう。そもそもわれわれ人間はその昔、アダムとイブによって生み出されたという説がある。その説が本当だとするならば、人間の世界を一から作り直すことができるのかもしれない。私はもう一度世界を構築して、そして、この世界を創り変えるのだよ」



「そうですか。あなたの考えは分かりました。では、その儀式において、その代償というのは一体何なのでしょうか? 教主様は分かりますか?」



 総司は柄を握る。



「それは供物となるその三つだろう」



 マーロスは答える。



「違うな……。それは間違っている。代償となるのは……」



 総司は刀を抜き、剣先が見えないほどの速さでマーロスの頭と体を真っ二つに斬る。



「生きている人間そのものだ……」



 刀を上から下へと振り下ろし、付着した血を払い落す。



 刀を鞘に納め、血を流しながら横に倒れているマーロスを見下ろして言う。



「そう、人の命をそう易々と実験体に使うこと自体、禁忌を犯すんだよ。それに一つ言っておく、俺はあんたを斬っても何の躊躇いもない」



 そして、懐から小瓶に入った赤い物体を盗み取る。



 賢者の石だ。



 総司はそれをポケットに入れてフッと、笑う。



「本当にクズだな。それを自分の手で殺す俺もクズだな……」



 左胸の懐にあるポケットから通信機を取り出し、誰かに連絡を取る。



「もしもし、ああ、俺ですけど……。はい、こちらは済みました」



『それで何か収穫は得られたのか?』



 通信機の向こう側から男の声が聞こえてくる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る