なほあまりある 2


 愛想のない俺の返事にも、昭仁は気にする事なく笑ってみせる。


「いやいや、意外とムズカシイもんよ? 海で泳ぐってのは」


「てかなんで、あんなに人がいっぱいいる海で泳ごうとか考えんだよ」


「いいじゃんいいじゃん。それで女の方から声をかけてきたんだから」


「声をかけてきたのは、俺にだけどな」


 1年以上、連絡すら取り合っていなかった友人。だがすぐに、中学の頃のノリが甦った。


 しばらく放っておいたからか、隣の弘人が袖口を微かに引っ張ってくる。退屈しているのだろうと視線を向けると、そうではなくあらぬ方向を凝視していた。


 その視線を辿って、ゲーセンの前で座ったままでいる昭仁の友人4人と目が合った。あからさまに、敵対心の籠った瞳で俺を見ている。


「あぁ?」


 俺が眉をひそめる気配が伝わったのか、弾かれたように弘人が振り返った。


「……祐志」


 袖を引っ張ったのは、俺に知らせようとしたのではなく無意識だったらしい。両手で俺の腕を掴み、心配そうに声をかけてくる。


「大丈夫だって」


 弘人にそう答えてから、昭仁へと向き直った。

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