月を見しかな 1


 ノートにシャーペンを走らせていた手を止めて、俺は携帯のディスプレイを覗き込んだ。


 この動作を、学校から帰ってきてから何回繰り返している事か。


 画面は相変わらず時刻だけを表示させ、 着信もメールも、届いた気配がない。


 参考書に意識を戻すが、一向に集中出来ないでいた。


 いい加減諦めろと、心の中でもう1人の冷めた自分が囁く。


 連絡はこないと判っているクセに、縋るように何度も携帯を覗き込んでいた。


『じゃあ。俺に一緒に行く奴がいなかった ら、付き合ってくれんのかよ?』


 織田弘人の言った言葉を思い出し、何気に言っただろう言葉を、何度も頭の中で反芻する。


 織田とは、中学の頃から何度か同じクラスになった。


 親友とまでは言わないが、顔を合わせれ ば挨拶を交わすし、休み時間にはバカ話で盛り上がりもする。


 居心地のいい友人だ。


 だがいつの間にか、あいつの隣には、当然のように別の奴が立っていた。


 ――磐木 祐志。


 磐木は決して嫌な奴じゃない。只、織田とは少し毛色が違う、と思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る