さしも知らじな 7
川は途中でカーブしていて、ちょうどそこにはマンションが建っている。ここからでは花火が遮られて、すっきりと全ては見えなかった。
だからこそ、みんな早足で橋を渡り、見やすい場所へ行こうとしてるのに。
せっかく現地まで来たのだから、祐志にはもっといい場所で花火を見てほしかった。
「――だけど。……」
花火の音で、祐志の声が聞こえない。首を傾げる俺に、祐志は少し顔を近付けて川面を指差した。
「だけど。花火を映して、とても綺麗じゃねぇ?」
ほら、と呟いた祐志は、みんなが見上げる花火ではなく、1人川を見つめていた。
「まるで、水の中で光が生まれてるみたいだ」
こんな時。
祐志は普段のように『すげぇ』とは言わず、『とても』と表現したりする。
俺には気付かぬ視点で物事を見て、みんなが天を仰ぐ中で1人、川を見下ろしていたりする。
――な んだろ。こーゆーの……。
「情緒?」
湧き上がってきた自分の感情すら掴みきれないままで、1人呟く。只、俺の心臓だけは煩く騒ぎたてていて、花火の所為なのか、鼓動の所為なのか、ずっと足元が揺れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます