さしも知らじな 7


 川は途中でカーブしていて、ちょうどそこにはマンションが建っている。ここからでは花火が遮られて、すっきりと全ては見えなかった。


 だからこそ、みんな早足で橋を渡り、見やすい場所へ行こうとしてるのに。


 せっかく現地まで来たのだから、祐志にはもっといい場所で花火を見てほしかった。


「――だけど。……」


 花火の音で、祐志の声が聞こえない。首を傾げる俺に、祐志は少し顔を近付けて川面を指差した。


「だけど。花火を映して、とても綺麗じゃねぇ?」


 ほら、と呟いた祐志は、みんなが見上げる花火ではなく、1人川を見つめていた。


「まるで、水の中で光が生まれてるみたいだ」


 こんな時。


 祐志は普段のように『すげぇ』とは言わず、『とても』と表現したりする。


 俺には気付かぬ視点で物事を見て、みんなが天を仰ぐ中で1人、川を見下ろしていたりする。


 ――な んだろ。こーゆーの……。


「情緒?」


 湧き上がってきた自分の感情すら掴みきれないままで、1人呟く。只、俺の心臓だけは煩く騒ぎたてていて、花火の所為なのか、鼓動の所為なのか、ずっと足元が揺れていた。

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