心も知らず 11

 グッと手を握って頬を膨らませた俺に、祐志はクスクスと笑いだした。


「センセー。織田君がイジめます~」


「イジめてんのはお前だ!」


 俺達のやり取りに大城が「あはは」と笑い声をあげる。


「じゃ、鍵頼むね」


 そう言って、少し急いでるのか、大城は腕時計を確認しながら出て行った。


 沈黙が訪れた美術室に、祐志の道具を片付ける音だけが響く。何もする事がない俺は、先程よりも勢いを失った夕暮れを見つめていた。


 さっきまでは、あんなに綺麗だったのに……。


 薄暗くなっていく風景がなんだかつまんなくて、俺は無意識に視線を床に落としていた。


 自分の足のつま先を上げたり下げたりしながら、只その動きをぼんやりと眺める。


「面白いのか? それ」


 洗い場で手を洗いながら、祐志が声をかけてくる。


「別に……」


「なら。帰ろうぜ」


 言った祐志に「おー」と応じて鞄を持ち上げる。鍵を持ってドアへと向かった祐志に付いて、廊下へ出た。


 廊下は美術室よりもっと薄暗くて、さらに俺の気分を滅入らせた。


 さっきまでの楽しかった気分が嘘のようだ。

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