Telephone Calls from the Dead. ―死者からの電話―

 運命という言葉を信じる?私はそこまで信心深くはないけれど、時折信じてみたくなる。

 単なる事実の積み重ね、折り重なった偶然が見出した微かな可能性……そう、出会いは必然なんかじゃない。


 彼の記憶から窺い知るに、事の発端は、此度も事故だったと思う。あくまでも表向きはね。


 必ず、彼は真相を追い求めるわ。私が彼と共にいる限り、痛みが彼を駆り立てるから。


* * *


 ――煉獄へ堕とされたジュンイチ・サイトウが現世に帰還し、更に半年の月日が流れた――


 二年間、男は地獄を見てきた。

 彼は今もなお、変わらぬ景色を見下ろしている。

 視界を彩る物が如何に華々しく飾りたてようと、美しいとは感じ得ない。それがまやかしであると、男は既に熟知しているからだ。


 彼はこれ以上待ち伏せても獲物が現れない事を悟り、ゆっくりと重い腰を上げる。


「誰か……助けて……誰か……」


 立ち去ろうとしたその時、女性のか細い声が微かに鼓膜を打った。


 同時に嗅覚が働く。思考よりも早く、第六感が足取りに重りを付ける。

 男は女の姿を一瞥すると、折り返し階段の手すりを乗り越えた。

 

 血の気のない居住地の奥底へ、男は沈んでいく。

 

――1 hours ago――


 喧騒も冷め止まぬ夜の街、忽然と立ち尽くす女性が一人。

 時刻は既に日を跨ぎ、かといって彼女に連れ添いは無く、黒いセミロングヘアーはさして手入れが施されていない。

 女性の名は、マコト・ニッタ。


 彼女は何処か挙動不審な様子で辺りを見回す。

 マコトが上京を果たしてから半年。彼女にとって、都会の有様は未だ別世界と同然の認識であった。

 手元の携帯端末を頼りに行き先を確認しようとすると、輻輳する情報が彼女の思考を誑かす。


[The Japanese archipelago is reborn, and Tokyo evolves.(日本列島は生まれ変わり、東京は進化する)]


 唐突に響き渡った合成音声は、中天に浮かぶホログラム映像が発したものである。

 映像内で動き回るメイド服姿のキャラクター『Main―Main(まいんメイン)』と、マコトの焦点が合致した。

 液晶の中で、彼女はしきりに日本州知事選挙への投票を促す。

 繰り返される謳い文句とは裏腹に、Main―Mainの言動はあまりにも稚拙で、仕草は不自然なまでにあざとい。


 目線を逸らし頭上を見上げれば、夜空を彩るのは満点の星空などではなく、極彩色のネオンサインと、蔦植物のように鬱蒼と茂る配線パイプ。


 マコトは見慣れぬ光景に暫し呆然とする。

 せめて人集りから逃れようとすると、通りすがりの話し言葉が羽音のように鼓膜を弄った。


……

…………

………………

「聞いたか、通り魔だって……」


「目撃者もいる。でも、変なんだ……まるで亡霊のようだったとか」


「なあ君達、立ち寄っていかない?」


「ちょっと金貸してくれよ」


「最近オープンしたあの店……売ってるんだ、例のアレ」


「怪物の写真見たか?これ……本物らしいぞ」

「馬鹿馬鹿しい」


「良い店がある。続きはそこで」

………………

…………

……


 急激な不安に襲われたマコトは歩速を緩め、左手に持った携帯端末を見つめ始める。

(やっぱり……でも、ど、どうしよう……)


 今宵、彼女を剣呑たる夜闇よやみに駆り立てたのは、『死者からの電話』であった。


 ボーイフレンド、ブレント・ビーンランドを乗せた豪華客船『Lamia's Ark《ラミアの箱舟》』は、先週の火曜日、帰港を間近にして沈没。

 報道内容が紛れもない事実だと仮定するならば、生還した者は誰一人として居ない。


 救いのない顛末を理解する一方で、悍まき声音がマコトの脳裏で反響し、微かな期待を彼女の胸に抱かせる。


「今すぐに、会いたい……君に渡したいものが……あるんだ。アキハバラ駅の立体駐車場……裏手の地下街道で……待ってるよ、マコト」


 正体不明の通信者が発する言葉には、不可思議にも温かみが、切なさが、そして彼の面影が混在していた。


(履歴は残ってるから、幻覚とか、思い込みなんかじゃない。でも、私から電話をかけても応答はないし……)

 無意識の行き先が右往し、左往する。脚の付け根から浮き上がるような、不可思議な感覚がマコトを襲う。

(彼に会いたい。待ち合わせ場所はもうすぐだから……引き返しちゃダメ。どうしても確かめないと。そう、覚悟を決めるの)

 マコトは自身を鼓舞すると同時に、自身の正気を疑った。


 前を向き直ったマコトの歩行は緩やかに加速を始める。視界の末端を流し続け、彼女は無心で歩き続けた。


 やがて過ぎ行く景色が静止し、瞬きを経て焦点が定まる。

 道中の記憶は朧げながら、マコトは目的地へと辿り着いていた。


 彼女を迎え入れようとするのは、光を失った『backyard』のネオンサインと無数のオブジェクト。

 入り口を装飾する役目を担っていた筈の看板や置物は、鉄錆と著しい劣化により、かつての面影をこれ見よがしに残したまま死んでいた。


〈BiiyyZZZZzzz…〉

〈あ……が////#@##6555cccc〉


 突如、唸り声のような雑音が響き、マコトは反射的に耳を塞ぐ。

「これって……異常電磁波地帯……?」

 彼女が発した言葉が指すもの、それは公的機関が対策を講じるまで都市伝説とされていた現象である。


 その証拠に、携帯端末の液晶には稲妻の如きノイズが走り、異様な音声を発しながら一切の操作を受け付けようとしない。

(この先でいいの? ……本当に?)

 マコトが知る限り、安全に地下街道へと立ち入れる唯一の出入り口は此処だけだった。


「……待ってて、ブレント」

 マコトは固唾を飲み込むと、寂れた鉄格子とオフィスビルの狭間に呑み込まれていく。


 道中の蛍光灯は明滅を繰り返し、電子音は靴音と輪唱する。

 加えて、表通りの喧騒とは相反した静寂がマコトの聴覚を鋭敏化させ、彼女の不安と恐怖を増長させる。

(落ち着いて、私。決して広い場所ではない筈だから、少し見回って、それから来た道を引き返せばいいの……それだけなの……)

 マコトは自身にそう言い聞かせながら、慎重に階段を下っていった。


 通路に足を下ろし、ペースを徐々に上げながら歩みを進めていくと、円状の広間を中心とした丁字路に差し掛かる。

 壁面に掲載された地図によれば、直進しても、左側の通路を進んでも、終着点に違いはない。


 マコトは、左手に見える通路を進む事にする。

 しかし、彼女は此度の選択を「生涯において史上最悪の判断」であったと後悔した。


「…………ッ!」

 無意識下の理性が、前方へ歩を進めるという行動を阻害する。

 口元を両手で覆い、叫び声を喉元で押し留めた途端、マコトは重心の在り処を見失って尻餅をついた。


 彼女の目前で障壁と化したのは、目線の先に転がる赤黒い物体……それは、人間の死体であった。


 立て続けに異常が生じる。

 ボロ雑巾のような上半身から、まるで、降雨が天に昇っていくかのようにして血液が浮かび上がり、廊下の奥底へと吸収されていった。


「……招かれざる客人……」


 何者かの声が厳かに響き渡る。

 5mほど離れた死体から更に通路の奥、暗転を繰り返しながらその存在は現れた。

 白い仮面と、傷だらけの黒いロングコートを身に纏い、身の丈程もある西洋剣を左手に握った怪物。否、姿形は紛う事なき人間である。


(な、なに……あれ……! 早く逃げないと……逃げないと……は、早く立って……私の足……お願い……)

 ズルズルと這いずるように後退るマコト。

 仮面の人物は足先で死体を横に退かすと、悠長な足取りでマコトの側に接近する。


 二人の距離は、丁度剣先が喉元を掠める程度。マコトの体は恐怖のあまり言う事を効かない。


「……一人かね?」

 仮面の人物は穏やかな口調で問いた。

「…………⁈」

 マコトは答えられはない。

 口元はそれらしく動くのだが、声帯が上手く機能していない。

 しかし、仮面の人物は察し得たように頷く。

「……不可思議な事だ。可憐な女子おなごが一人、街外れの裏通り、通信網から疎外された空間に自ら赴く……」

「っ……ぁ……」

「形からして浮浪者ではあるまい」

 仮面の人物は片手で死体を指し示す。

 アスファルトに転がる肉塊は浮浪者の成れの果てであると、そう言いたげであった。

「さあ、答えてみたまえ。目的はなんだ」

「……っ……! も、もしかして、もしかすると……」

「……?」


 一瞬の沈黙。空気が冷たさを増す。

 マコトの唇が、少しずつ動き出す。


「ブ……ブレン、ト……なの?」

「……」

 仮面の人物は僅かに首を傾げると、暗闇の奥底で笑みを浮かべた。


 再び沈黙が広がる。同時に、空気が収縮していく。

 息苦しさを覚えたマコトの身体は、はっきりと何かを感じ取っていた。

 脳から発せられた危険信号が全身にくまなく行き渡り、筋肉が小刻みに震え出す。

「……っ……だ、誰なの……?」

「……」

「ブレントは……何処?」

「……ふふ」

 差し向けられた殺意がマコトの目頭を熱くさせた。剣が振り上げられた刹那、刀刃が瞼の裏に焼きつく。

 

 咄嗟にマコトの思考が働く。

 回避する? 不可能だ。

 命乞い? 不可能だ。

 なぜ、こうなってしまったのか? 果たしてブレントは生きていたのか? 電話の謎は? 目の前の人間は何者なのか? いや、人間かどうかすら定かでは無い。そんなことは、彼女にとって最早どうでも良いことだった。


 思考を放棄した途端、マコトの脳裏に溢れ出したのは今までの人生。

 生まれ故郷ドウホクにて、共に住まう父と母。故郷での長閑な生活に反し、刺激に満ちた都会暮らし。ブレントとの出会い。幸せと悲しみ。今まで培ってきた全ての思い出が、たった今水泡に帰そうとしている。


(あぁ……嫌だ……どうして……! 死にたくない……死にたくないっ!)

 

〈dam〉


〈dam〉


〈damdam〉

〈damdaMDAM〉

〈DAMDAMDAMDAMDAM〉


「aa……AAAAAAAAHHHHHHHH!!!」


 マコトが諦めかけたその時、強烈な咆哮が彼女の瞼をこじ開けた。


 マコトの頭上、若しくは後方から、『何か』が接近してくる。彼女の聴覚と触覚、そして嗅覚に、尋常ならざる存在感が強烈に訴えかけてくるのだ。

 腐臭、地響き、唸り声。感じたもの全てが、常軌を逸していた。


 マコトが状況の変化を察知した直後、迫り来る『何か』は彼女を飛び越え、猛然と仮面の人物に襲い掛かった。

「……ッ!」

「AAAHHHHHHHH!!!」

「あっ……! ああっ」

 状況が飲み込めず狼狽するマコト。

 ポツリ、ポツリと、黒い液体がマコトの額に滴り落ちる。

「うっ⁈」

 それは『何か』の身体に付着していたものだった。血液特有の鉄臭さと、魚介類の生臭さが混濁したかのような悪臭が、彼女の嗅覚を否応無しに突き刺した。


〈SLASH!〉


 更に、黒い液体が『何か』の体から勢いよく噴き出す。

「GooooAAAHHHHHHH!!」

 咆哮が断末魔に変わる。

 マコトは気が付く。『何か』の身体を貫いた、西洋剣の切っ先に。

「あ……あぁ……」

 マコトの体に黒い雨が降り注いだ。

「AAAA HHHHHHHhhh……GoooOOO!!」

 『何か』の叫び声に呼応するかのように、辺りに散開した液体は独りでに動き出す。


Run away


   Run away


 Run away


 マコトは目を丸くする。それらは何と、文字を象っていたのだ。彼女にもはっきりと読み取ることが出来た。

 液体が作り出した文字列は随分と見知った言語だったからだ。

「Run away(逃げろ)……!」

 驚愕のあまり唖然とするマコト。

彼女は理解する。突如として出現した『何か』の目的、その行動の意味を。


 20年の歳月を経てマコトの中に構築されてきたもの、言うなれば、それはこの世界における絶対的因果律。

 彼女の中にある普遍と常識は綻び、築き上げられた概念は音を立てて崩れ始めた。

 

 途端に、脚に力が篭る。マコトは震える身体を抑え込み、全身全霊を込めて立ち上がり、そして走り出した。


「あっ……あぁっ! あああっ!ああああああ! うぁああああああ!!」


 揺れる視界、荒れる呼吸。明滅をくり返す通路が渦を巻き、外の空気が入り乱れる。

 足元がフラつき転倒するも、痛みは感じず、無様な動作でありながら素早く立ち上がり、そして再び走り出す。

 

(あれは……あの怪物は……黒い『何か』は……ブレントだったんじゃ……)

「ぁぁ……あぁ……」

 脳裏によぎる考えを振りほどき、振り向く事はしなかった。瞬く度にフラッシュバックする光景を、マコトは涙で拭い落とす。


 足を止め、脳天から浴びるのは汗と街灯の光。暗闇の中、円錐形に浮かび上がるマコトの姿は、全身黒い液体と汗で湿った異質な有様。顔周りには涙が入り混じっている。


「はぁ……はっ、はぁ……」


 どれだけ走ったのか、マコトですら定かではなかった。周囲に人気はなく、遠目に見える大通りの街明かりだけが、彼女にとって唯一の出口のように思えた。


「誰か……助けて……誰か……」


 覚束ない足取りながら、マコトは救いを求めて人間の波に身を投じる。


「助けて、誰か……お願い。此処が何処なのか、分からないの……携帯もさっきおかしくなって……誰か……」


 助けを乞い求める声は羽根を広げた蝶となりて、極彩色の光に溶け入り、明滅する複眼は彼女の代わりに助けを求める。

 酷く乾いた空気が、その様を無様だと嘲笑った。

 やがて、諦観が結論を導き出す。

 マコトは気付いてしまったのだ。側を通る通行人には、顔がない。仮にあったとしても、彼等の視界にマコトが映り込む事はなく、またマコトも、彼等の情けを拝む事は無いのだと。


 疲れ果て、歩道の真ん中でマコトはへたり込む。項垂れたまま、彼女はアスファルトに滴る涙の跡を数え始めた。

 人目など気にする余裕は既になく、一切の思考を停止する事で、ほんの僅かな安らぎを得ようとした末の行動であった。


「……した?どうしました?」

「……?」

 あまりにも外部への意識を遮断していた為か、マコトは背後から自身の肩を叩く者の存在に、男の呼び掛けに暫く気がつかなった。

「何があったんですか?全身、血塗れというか……」

 声色は優しさを感じさせる一方で、最低限の抑揚で発せられる重低音からは、何処か底知れぬ頑強さを伺わせる。

 マコトに救いの手を差し伸べた者は白馬の王子……とは程遠く、190近い身長と屈強な体格に厳めしい顔付きという、威圧的な風貌の男性であった。


「……っ! ヒィ!」

 振り向いた矢先、抜き身の刃のような眼光がマコトを射抜く。

 怯むマコトに対し、男はレザージャケットから紫色のハンカチを差し出した。

「大丈夫、落ち着いて。良かったら、これで拭いてください」

「ぁ……」

 マコトは恐る恐るハンカチを手に取り、体に付着した液体を拭い取る。


「一先ず移動しましょう。最寄りの駅まで送ります。それとも、交番に向かいますか?」

「いや……今は……家に、とにかく、帰りたいです……」

「分かりました。その、立てますか?」

 ハンカチを左手で受け取った男は、至って紳士的所作で右手を差し伸べる。

「あ……大丈夫です。ハイ」

 聞いた男は口元を緩めて頷いた。

 マコトは膝に手を付き、ゆっくりと立ち上がろうとする。

 男はその間、彼女を側で見守ると同時に、辺り一帯を警戒し始めた。一瞬にして彼の面持ちは険しいものへと変貌する。


「あの、貴方は一体」

 マコトの呼び掛けを聞き取り、男の顔筋は再び柔和な表情を作る。

「ただの通りすがりですよ。今、バイトの帰りでして」

「そう、でしたか」

「怪我とかは……無さそうですね。よかった」

 そう言うと、男は優しげに微笑んで見せた。鋭い目付きや近寄り難い雰囲気とは裏腹に、穏やかで暖かみのある彼の振る舞いは、マコトに久方ぶりの安堵を与える。

(トウキョウにも、こんな人は居るんだな……)

「付いてきてください。あまり側を離れないで」

「はい」

 マコトのペースに合わせて男は歩道を進み、マコトは拙い足取りで男の後に続く。最寄りの駅へと向かう最中、

男はマコトに質問を投げかける。


「何か厄介事というか、大変な事に巻き込まれたとお見受けしますが……」

「ええと、はい……その、自分でも、何が何だかよく分からなくて……」

 マコトが思い返した出来事は全てが非現実的で、とても他言出来るような事柄ではなかった。

 マコトの瞳に、再び涙が滲む。彼女の様子を察知した男は、これ以上の質問は控えるべきだと判断した。

「すいません、不躾な質問でした……」

 謝る男に対し、マコトは首を横に振った。

「ごめんなさい……本当に、怖くて」

 男は小さく頷きながら、前向きな言葉を掛けようと試みる。

「もうすぐ駅に着きます。もう、何も心配しなくていい」

「……はい」

「でも、夜中に一人で出歩くのは本当に危険だ。家に着くまでは、なるべく暗い通りは避けて……兎に角、気をつけて」

「……はい。その、ありがとうございます」

「困った時は、お互い様ですよ」

 駅の改札口まで男は同行し、マコトが改札を通過する瞬間まで彼女を見送ろうとする。

「あ……!そうだ、あの、お名前は?」

 しかし、マコトが振り向いた時には既に男の姿はなく、それらしい気配すらもポッカリと消えて無くなっていた。


「え……」

 唯一残されていた彼の痕跡は、彼女の心中に染み渡った、他意のない人情の温かみだけであった。

「……全然、お礼出来なかったな……」


* * *


 無事、家に着いたマコトは服を脱ぎ捨て、嵐のような勢いでシャワーを浴び始める。

(うっ……気にしないようにしてたけどやっぱ臭う)

 気を緩めた途端に呼び起こされる記憶を、黒い液体と共にマコトは洗い流した。

 だがしかし、彼女は見てしまった。気が付かなければよかったと、心底マコトはそう思った。


H e lp


 排水溝に流される寸前、液体は再び文字を象っていたのだ。

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  l

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 足元を見渡せば、それも一つではない事に気付く。

「う……嘘でしょ……」

 気味が悪くなったマコトは、シャワーを出したまま浴室を飛び出した。


 遠のく水音の代わりに、居間に近付くほど聞き慣れたアラームが大きくなる。

 聞こえてきたのは、ブレントの連絡先に登録していた専用の着信音であった。


 マコトは青ざめる。

 恐る恐る携帯端末を手に取れば、そこには例の電話番号の表示。

「……!」

 間違いはなかった。彼女からすれば、間違いであって欲しかった。


 それは、『死者からの電話』。


 迸る恐怖、脳裏にこだまする声。

 マコトの目に涙が浮かぶ。

(「君に……渡したい物が……あるんだ……」)

「……ぁぁ」

 何故か、応答以外の操作を全て試したものの、携帯端末は言う事を聞かない。機能を停止する事すら出来ない。

「ぁっ……ぁあ……ぁあああああ……うぁあああああああ!!!」

 マコトに、逃げ道はなかった。


 今宵、とある賃貸アパートの105号室から、著名アーティスト『PUFFY×2』が歌うラブソング『Direct kiss』が一晩中鳴り響く。


//to be continued……

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