ホワイトデーの手紙

「またこんなことをして……、懲りない人だこと……」と呆れているでしょうか。仕事場での所作とまったく異なる文面に戸惑いと恐怖を覚えるでしょうか。でも安心して下さい。前みたいな不躾な真似はしません。ただ年に一度くらい大好きな人に日頃の感謝と想いを伝えるくらいなら許されることだと思います。時間が感情を風化させてくれることを期待していたのですが、そうたやすく事は運ばず、醸成へと転化して愛情と呼べる方へ向かってしまいます。自分の中で勝手に作り上げていたあなたと実際との違いに何度も失望して嫌いになったことでしょう。心が騒ぐから見たくない、もうそんな振る舞いをしないで欲しい、そう思っても、それは自分だけの都合であって、一体何ができるでしょうか。でも少し時間が経つとそれら全てを受け入れてしまい、いつもよりも少しだけ暖かさを持った気持ちに立ち返ります。昔に観たイプセンの「人形の家」という劇で、主人公の女性が「好きな人と、一緒にいたい人は別なのよ」という台詞があり、性別は男でも、てんで男らしくない自分には、この言い回しを理解できてしまいます。自然は本当にうまくできています。ほぼ毎日会う環境にいながらあなたを忘れるのは到底できることではありません。毎日水を得に職場へ向かうようなものです。土日を挟んで印象が薄れても、乾きに強い植物が少しの水分で立ち所に生気を吹き返すように、驚くべき生命力で繁茂するのに呆れ返るばかりです。生活費を得る為に働きに来ているのに、心に潤いを求めに来ているのです。土曜日の仕事がどれだけ味気ないものか。あと何年一緒に仕事をできるでしょうか。昔からあなたを知るみんなに羨望を覚えます。もっと早く会えたらと何度思ったことでしょう。でも仕方がないです。今年も来年もずっと、生き生きと、可愛いあなたで、相方さんと睦まじく日々を過ごしてくださいね。

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