第44話 グループ

「じゃあ罠についてだけど。春樹、具体的な罠の案とかある?」

「えーっと……。ごめん、そこまではまだ考えてなかった」

 俺の頼りない返事も予想済みとでもいうかのように、夏樹が次の言葉を発する。

「罠を張っていると、たまに安全家の人に注意されるから気を付けないとね。ああそうだ、星也君と春樹の復旧作業についてだけど、休むって連絡は僕から入れておくから安心してね」

「あ、うん」

「ありがとうございます」

「それじゃあ話し戻すね。やっぱり罠と言えば力を使った方が効果は大きいと思う。ただシンジロウさんを傷つけることはできないと思うけど、まあ、その辺は君たちは望んでいないんでしょ?」

 俺たちは無言でこくりと頷いた。

 夏樹は小さくため息を吐いたが、すぐに表情を引き締めた。

「正直怪我を負わせずに逃げ切るっていうのは難しいんだけれども。それに反対する人が3人もいるんじゃ仕方ないね。まあ、驚いて少し足を止めるくらいにはなるでしょ。それから、みんな一緒に逃げてその道にだけ罠を張っておくと進んだルートなんてすぐバレるからね。できれば2つのグループに分かれて逃げたいんだけどいいかな」

 さすがは天才と呼ばれた人。

 いつものゆるゆるとした表情などどこかに捨ててきてしまったかのように、きりりとした顔で、テキパキと話を進めていく。

 俺たちが口を挟む隙間がほぼないというのが難点だが、この場合余計な口を挟まずに夏樹に任せておいた方が正解な気がする。

 おそらく2人もそう思ったのだろう、再び動きをそろえてこくりと頷いた。

「じゃあ逃げるルートはどうする? 反対方向に散った方がいいかもね。そうすれば確実にどちらかは助かる。それから、各グループに力の操り方が得意、もしくは力が強い人を1人ずつ入れたいんだけど、この中で特に優秀な人って誰? あ、ごめんね、悪いんだけど僕は力に関してはまるでダメなんだ」

 夏樹の言葉に、俺たちは顔を見合わせた。

 一番安定しているのは星也なのだが、アランの件で星也は力を使うということに対して少々ばかり苦手意識を持っているようだった。

 それは星也との会話で分かったことでもあり、力の話になった時の表情から分かったことでもある。

 これについては本当に申しわけないと思うばかりだ。

 なにせその原因は俺にあるのだから。

 一方加恋は安定して力を放つことはできるものの、力の強さは限りなく弱い。

 対シンジロウさん戦になった場合、勝ち目はまずないだろう。

 そして俺は、強い力を放つことこそ出来るが、それは不安定。

 下手すれば呑まれるし、あたりを焼き尽くすし。

 それにシンジロウさんがビビるとも思えない。

 なんとも使い勝手が悪い。

 そうなると、やはり一番うまく力を操れるのは星也ということになる。

 そしてそのことに星也も気づいているようで、恐る恐る手を上げていた。

「僕、かな」

「そうだね」

「うん」

「OK。じゃあ、星也君と、あともう1人。どっちがいいかな。僕的には春樹の方がいいと思うんだけど。女の子に危ないことはさせられないしね」

 夏樹の発言に加恋が目を輝かせている。

 まったく、こんな時だというのに緊張感がない。

 そしてまあ、こうなった以上、引き受けるしかないのだろう。

「わかった。やるよ」

「ありがとう。それじゃあ加恋ちゃんはどっちのグループに入る? 力のバランスも見た方がいいよね。あ、星也君もしかして春樹と組みたかった? ごめんね」

「……別に大丈夫です」

 星也が分かりやすくそっぽをむく。

 俺と組みたかったなんて、嬉しいじゃないか。

 なんて、さっき加恋に対して緊張感がないなどと思った俺は一番言ってはいけないと思うけれど。

「だったら星也君は話し慣れた人と組んだ方がいいかな? 加恋ちゃん、星也君と一緒でいい?」

「あ、はい」

「じゃあグループは決まりだね。ここからは外に向かいながら話そう。どこでシンジロウさんが聞いているか分からないから小さな声で、唇を読まれないように口の動きは小さく。というかあまり喋らないで。じゃあ行くよ」

 そして俺たちは一斉に立ち上がり、部屋を後にしたのだった。


 シンジロウさんから逃げきるゲームなんて無理ゲー、俺たちが攻略できるとは思わない。

 ましてこのゲームはフェイトディザスタアまで続くのだ。

 そもそも、ゲームと表現するのはどうなのだろうか。

 俺たちにとってこれはゲームなんて簡単なものじゃない、自分の命を懸けた戦いなのだ。

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