第43話 策
夏樹から話を聞いた後、星也も加恋も、まるで信じられないという顔をした。
星也はずっとシンジロウさんを信頼してやってきたし、加恋だって会って間もない人からこんなことを言われても信じられないというのが普通だろう。
「春樹君、これって本当なの?」
話を聞き終えて第一声、星也は俺にそう聞いてきた。
「冗談だったら笑えないよ」
「冗談じゃない。俺だって信じたくないよ、こんなこと」
「春樹がそういうならそうなんじゃない? 星也」
「……だとしたら、早く策を見つけないと本当に危ないよ。でも僕はまだ信じられない。だから、念のためね」
「それでいいよ星也君。それで、僕はシンジロウさんについてよく分からないから聞くんだけど、シンジロウさんってどんな人?」
夏樹の問いかけに、皆黙ってしまった。
少し前なら迷わず優しい人、とか正しい人とかそういう前向きな答えをしていただろう。
でも、シンジロウさんの裏切りが発覚した今では、そんな言葉で彼を表していいのか迷うものである。
「優しい人、だったんだね」
何も言わない俺たちの代わりに、夏樹が気持ちを代弁して言ってくれる。
それに続いて、加恋が、いま最も俺たちが思っていることを口にした。
「優しい人だよ。でもその優しさの裏でそんなことを考えてたなら怖いよ。演技上手だし、頭いいし、やっぱり怖いよ……」
「……じゃあ割と高度な技術で襲ってくるかもしれないね。僕たちが取れる行動としては大きく分けて2つ。1つはシンジロウさんに見つからない場所まで逃げる。もう1つは対シンジロウさん策を考える。正面切って力で戦うのは現実的じゃない。どうする?」
「僕は逃げるのは無理だと思う。だってシンジロウさんは前回の生き残りだから、この世界のことは大体知ってるんじゃないかな」
「私はそうは思わないけど。だって生きてるときだって地球の場所全部知ってたわけじゃないでしょ。それにシンジロウさんが何を考えているのか結局のところでわからないんだから、策を考える方が難しいと思うよ」
「でもシンジロウさんは力が上手に使えるんだ。逃げている最中に見つかったら終わりだよ」
「でも……」
こうしている間にも、時間はどんどん過ぎていく。
きっとシンジロウさんはシンジロウさんで、俺らの動きを予想して自分がとる行動を考えているはずだ。
あまりここには時間をかけたくない。
そうなるとやっぱり、俺も自分の意見を出さないといけないと思うのだけれど……。
「春樹君はどう思う?」
「えーと……俺は……逃げながら罠を仕掛けていったらいいんじゃないかな」
「罠?」
加恋が小さく首をかしげる。
「だってさ、どっちもあんまり現実味がないじゃん。だったらどっちもやった方がいいかなって」
「2つやろうとするとどっちもできなくなるよ、春樹」
「だって……」
「でもまあここで悩んでいるよりはやってみる価値はあるかもしれないね。2人もそう思わない?」
「私春樹に賛成。逃げるの大事」
「……皆がそういうならそれでいいと思うけど……」
「じゃあ決まりだね。逃げる方角と罠について詰めていこう」
ゲーム開始まで残り23時間30分。
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