第35話 兄弟

 全部納得でしょ? とナツキさんは笑った。

「ナツキさんって、名前を漢字で書くと夏樹ですか」

「そうそう! 夏樹と春樹。単純だよねえ」

 ナツキさん改め夏樹さんがくつくつと笑っている。

「それより春樹君。あんまり驚かないんだね? もっとびっくりすると思ってたんだけどなあ」

「別に。大体察しはついてましたから」

「ふうん。そうなんだ」

 夏樹さんは片付けの作業を再開させながら、軽い調子で話してくる。

「いやあごめんね?」

「何がですか」

「生前のことだよ。僕が死んだせいで中々迷惑かけたでしょ」

「はあ? そんなことないですけど」

 内心夏樹さんの言葉に同意しながらも、それがバレないように返答する。

「うっそだあ! でもそういうならそうなのかな? やー……ないな。だって僕、望遠鏡で見てたもん。春樹の一生」

 いつの間にか俺に対する呼び方が馴れ馴れしくなっている。

「母さんも大変だよね。最愛の息子を亡くして、それの変わりのように産んだ子供は自殺。そして自殺の原因に少なからず自分自身も含まれているだなんて」

「やっぱり俺は自殺だったんだ」

「そうだよー。どんな死に方かは言わないでおくけど」

「そうしてください。で、その優秀なお兄さんが俺に何の用ですか?」

「言い方に悪意を感じるなー。僕の目的は、まあ第一としては兄弟に会いたかったってやつかな。実は少し前から尾行してたんだよ?」

「ストーカーですか」

「やめてよ。ていうかさあ、春樹僕に対して冷たすぎない?」

「別に」

 貴方と話すとなんか疲れるんだよ、という本心は心の中に留めておくことで、穏便に会話を続行させる。

「それから、僕は俺を守らなきゃいけない」

「守る?」

「春樹が死んだのの原因に僕だって含まれてる。だったらこっちの世界では長生きさて上げたいと思うのが兄というものだよ」

「余計なお世話ですよ」

 俺は吐き捨てるようにそういうと、その場を離れた。

「どこいくの?」

「星也のところに。話に続きがあるならまた今度にしてください。今はもう疲れました」

「……了解」

 また今度を作ってしまったのは、本当はもう少し話したいからだということには、気が付かないことにしておいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る