第27話 加恋

 加恋は、息を切らしながらその扉をノックした。

「はいよー」

 気の抜けたシンジロウの声がして、扉が開かれる。

 気の抜けた声ではあるけれど、若干いつもより声が固く感じるのは、きっと期のせいではないのだろう。

 加恋は意を決してその部屋の中へと入っていった。

 部屋の奥に行くと、春樹と星也がちらちらとこちらを窺っているのが見える。

 その様子がなんだか少しおかしくて、加恋の口元は自然と緩んでしまう。

 しかし小さく深呼吸をし、表情をきりりと引き締めてから2人に話しかけた。

「ごめん、今いいかな」

「うん」

 2人から確認をとってから、行儀よく正座をする。

 それを見た2人は、慌てた様子で姿勢を正した。

「あのね、さっきは……ごめん」

 加恋がそう謝ると、2人は顔を見合わせそれに続く言葉を待った。

「2人が連れてってくれたところで、モイチャーと話してきたの。それでね、私気が付いたんだ」

 そういうと、加恋は2人をまっすぐに見つめた。

「私は、皆のことが大好き。春樹も星也も、シンジロウさんも。皆のことが大好きなんだって」

 春樹の頬が赤くなっている。そういう意味じゃないけどね、と加恋は思う。

「皆と一緒にいると安心するんだ。だから、さ。これからも、一緒にいていいですか?」

 改まってそういう加恋に、3人は噴き出していた。

 緊張していた空気が、急にほどけていつも通りになる。

「ちょ、何で笑うのー?」

「や、だってさ。そんなの、当たり前じゃん。なあ、星也」

「そうだよ。だって僕らはもう仲間だから」

「星也お前、仲間とかよく恥ずかしげもなく言えるな」

「え⁉ あ、確かに……!」

「まあ、そういうことだ。加恋はもう俺たちの家族だ」

 そういって笑う3人を見て、加恋も笑顔になる。

「うん。ありがとう……!」

 ひとしきり笑いあってから、春樹が比較的真面目な声でシンジロウさんに話しかけた。

「加恋の兄ちゃん、どんな感じだった?」

「思ったよりおとなしかったな。今頃安全家のやつらに尋問されてんな。でもまあ、しばらくはこの辺には来ないだろ」

「ふうん」

 何気ないその会話に、加恋は疑問を覚えた。

「お兄ちゃんに何かしたの?」

「あ? ああ、安全家んとこに連れてった。殺しはしねえから大丈夫だぞ」

「そう。殺さずに、妥当な罰を受けてほしいね」

「罰?」

「うん。お兄ちゃんは中々にひどい人だったの。でもここには生者が思うような天国も地獄もないでしょ? 人を殺してたわけでもないから、そこまでの罰は受けずに今まで生きてきたんだと思うんだよね」

 加恋はそこで一度小さく息をはいた。

「ああ、お兄ちゃんね、女の人が大好きなの。見た目は悪くないから馬鹿な人はみんなお兄ちゃんのものになる。でもお兄ちゃんはそれ以上に馬鹿だから、すぐ捨てられちゃうんだよね。そして私や動物に八つ当たりをするっていう」

 ひどい話だよね、と加恋は肩をすくめた。

「でももう大丈夫。だって私には、皆がいるから!」

「加恋……」

「じゃあ、何としてでも全員でフェイトディザスタアを乗り切らないとな!」

「うん!」

 加恋は笑った。

 その笑顔は、今までで一番いい笑顔だった。

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