第百八十四譚 蒼空と黄金


 魔王軍右軍の前線にて、魔王軍が次々と討ち倒されていく。

 その前線の中心にいるのは、明らかに他とは違う鎧を身に纏う二人の騎士。


 黄金色の鎧を身に纏い、自らの背丈よりも大きい斧を振り回す『黄金の騎士』。

 蒼色の鎧を身に纏い、鎧と同じ蒼い弓を持ち矢じりが太く鋭い矢を射る『蒼空の騎士』。


 二人の騎士は止まる事無く淡々と魔王軍の魔族たちを葬っていく。

 

「しかし、何故八皇竜は動こうとしないのか……。まあ、動かずとも我々のみで対処は出来ますが」


 眼前に襲い来る骸骨の群れを一射で討ち、次の矢を装填しながら言葉を発する。


「き、きっと、聖王の作戦か何かだと、ボクは思うな……」

「作戦、ですか。自らの戦力は少数に留め温存し、我々キテラ王国の兵士だけを戦わせるこれが作戦だとは……気に喰いませんね」


 言葉に少し苛立ちを感じさせるような声音で、蒼騎士は弓を射る。

 その様子を見ながら斧を振る黄金の騎士は、ため息を吐く。


「ど、どのみちボクたちが魔王軍を倒したら次は聖王軍なんだし……い、今は大目に見てあげても良いんじゃないかな……」


 それもそうだと、蒼騎士は苛立ちを抑えた。

 しかし、蒼騎士を苛立たせるものはそれだけではない。


「魔王軍、面倒ですね。一気に一掃させてしまいましょうか」

「な、ならボクが援護するよ」


 蒼騎士が魔王軍から距離をとると同時に、黄金の騎士が最前線へ。

 

「ああ、愛しきアディヌ神よ。神徒たる私に御敵を討ち滅ぼす力をお与え下さい――」


 蒼騎士の矢が、怪しげな色の光を放ち始める。

 その光は徐々に強く輝き、元の矢の六倍以上もの大きさの光が矢を覆った。


 その暗光を確認した黄金の騎士は斧を振り回すのを止め、急ぎ後退していく。


「全てを貫け――”創造神の一矢アディヌ・アロウ”」


 瞬間、蒼き弓から暗光の矢が空高く放たれる。

 魔族は皆空を見上げ、その異変を感じ取った。


「ナンダ! ドコネラッテル!」

「バカナニンゲン!」

「マテ、ナニカキコエル」


 ここ右軍の上空にだけ、暗雲が立ち込める。

 空が唸っているような音が聴こえると同時に、強烈な光が右軍前線を襲う。


 その光から放たれた何かが地面に落とされ、物凄い爆発音とともに右軍前線を塵と化した。


「これでざっと五千はやれたでしょう。もう一度、同じ技を使いますから援護頼みましたよ」


 煙が立ち込める中、周りの状況を確認せずに蒼騎士が装填を開始する。

 

「マ、マズイ! タテナオセ!」

「ツギガクル! ソナエロ!」


 右軍第二陣が、煙の外から中の生き残りに声をかける。だが、その返事が返ってくることはなかった。

 

「無駄ですよ。この一撃の後は何も残りませんから」


 蒼騎士が構えた矢が、先程と同じように光を帯び始める。

 それを何としてでも防ごうと魔王軍が一斉に攻撃を仕掛けるも、全て黄金の騎士によって返り討ちにあう。

 暗光は巨大な槍へと姿を変え、天を貫かんとしている。


「右軍もこれで崩壊……さあ、苦しまないよう一撃で葬ってあげましょう」


 魔王軍はその光景をただ見ている事しかできずに、自らの滅びの時を待った。

 最早彼ら魔族に戦意は無く、呆然と。その槍が放たれる瞬間を。


「”創造神アディヌ――」


 弓を構える彼に飛び込む一筋の光。


「あ、蒼騎士っ! ま、前っ――」


 煙の中から稲妻が迸る。

 稲妻は蒼騎士とぶつかると、強い衝撃と共に周りに立ち込める煙を吹き飛ばした。 


 蒼騎士は左手に持つ蒼弓で稲妻を受け止め、鍔ぜりあう。


「――驚きました。稲妻の魔法かと思いきや、生身だとは」


 鍔ぜりあう相手を見て、蒼騎士はそう口にする。

 

「貴女、名は?」

「――プルメリア」


 稲妻を纏った黒妖精は、蒼騎士から放たれる殺気に臆することなく自らの名を告げた。


「良い名ですね。しかしプルメリア殿。敵の陣地に単身で挑むなど些か無謀では?」


 その言葉と共に、黄金の騎士が死角から現れる。彼の斧は水平に、プルメリアの体を引き裂く軌道だった。

 だが、突如として黄金の騎士の足元から魔法陣が現れ、氷の刃が勢いよく突きあがる。

 それに阻まれ、黄金の騎士はプルメリアから大きく距離を取る事になった。


「い、一体これは……」

「いつの間に魔法陣を……」


 騎士らの反応を見たプルメリアは、くすりと笑みを浮かべる。 


「忠告感謝する。だが、何も心配はいらない」


 プルメリアは鍔迫り合いを止め、後ろに跳んで距離を取る。

 そして、既に待機していた仲間の隣に並び立つ。


「私一人ではなく、私たち二人だからだ」


 そう話すプルメリアの隣。弓を構えた半獣人族の姿が、そこにはあった。


「わたしたちがいる限り、あなたたちの自由にはさせないよ!」

「覚悟する事だ。私たちは、強い」


 二人の自信はどこからくるのか、騎士たちにはわからない。

 それは、当の本人たちにしかわからない想い。


 勇者と共に戦っている。

 その事実が、二人の胸に強く火を灯していた。

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