第百七十四譚 時を超え姿を変え、彼らは再会する
五十年前、俺たち勇者一行は魔王と対峙し、全滅した。
だけど、死んだ俺たち――アザレアとジオ、そして俺はこの時代に転生している。
さらにジオの話が本当ならば、『前魔王』も転生していることになる。
予想はしていた。いや、確信していた。
あの場にいたキーラ以外の全員が転生しているのなら、キーラも転生しているのが妥当だろう、と。
ただ、いつ誰に転生したのかはわからなかった。
それはそのはず。そんな能力を持ってるわけじゃないし、転生者だと世に知れ渡るはずも無いから情報も回ってこないからだ。
それでも、この世には一人だけ――転生者かどうかわかる能力を持っている者がいる。
今の姿に転生するとき、女神から受け取った能力。
それを使えるのは……。
「アザレア……?」
魔王の肩を掴み、泣きそうなのか笑いそうなのかわからない表情を浮かべるアザレア。
彼女こそが、その能力を使える唯一の妖精。
アザレアはこんな状況で嘘を吐くような奴じゃない。嘘をつける様な奴じゃないんだ。
という事は、彼女が話したこと、感じたことは本当の事なのだろう。
それはつまり、目の前に立つ魔王こそが俺たちの仲間だった『キーラ』だと確信づける証明でもあった。
「な……何を言っている? キーラなどという者は知らない」
「アタシだ……アタシだよ、キーラ……! ナファセロだ……!」
「え……?」
アザレアの言葉に、魔王が動揺したように見えた。
魔王はピタリと動きを止め、驚愕の顔を浮かべながらアザレアを見つめ――。
「……ナファ、セロ……ちゃん?」
魔王は彼女の名を呼んだ。
アザレアではなく、ナファセロと。
それは決して言われたから知っているのではなく、その名前に憶えがあるような口ぶりだった。
「やっぱり……やっぱりキーラだ……っ」
アザレアはそう呟くと、魔王にもたれかかるように抱き着いた。
抱き着かれた魔王は呆気にとられたままだったが、すぐに何かを理解したような表情で抱き着き返す。
「あ、ああ……ああ! 夢、きっとこれは夢ですね……。大好きだったナファセロちゃんにもう一度会えるなんて……」
「夢じゃねえ……夢じゃねえよ……。アタシはここにいる、姿は違ってもテメエの知るナファセロはここにいる……」
二人の抱き合う姿は、傍から見れば魔族と妖精族が抱き合っているだけにしか見えない光景だが、俺にとってはとても感動的に見えた。
別れの言葉すら言えずに死別という形で二度と会う事が無くなった二人が、時を超え姿を変え、再会する。それがとても、俺の胸に響いていた。
「ごめん、ごめんなあ……、アタシが守ってやれなくて……キーラを死なせちまって……」
――俺もそうだけど、ナファセロは仲間を守れなかったことに後悔の念を抱いていた。特に仲の良かったキーラを守れなかったことは、彼女自身に償いきれない何かを抱かせていたんだと思う。
口が悪くても、彼女は正義感の強い奴だ。仲間が死んだのは自分のせいだとでも思っているんだろう。
でも、それは違うってキーラは知っている。理解しているはずだ。
「――ナファセロちゃんのせいじゃないですよ。きっと私たちが死んだのも自分のせいだって思っているんでしょう? それは違います、悪いのは私たち全員……。リヴェリアくんに頼りっぱなしで、ナファセロちゃんには責任を負わせてしまって。魔王を甘く見て挑んだ私たちが悪いんです……」
「違う! アタシが……アタシがもっと強かったら……!」
「あなたは充分強いですよ。負けたのは魔王がそれ以上だったから。準備を念入りにしなかった私たちの責任……だから、決してナファセロちゃんだけのせいじゃないんです」
ナファセロには前衛という責任を負わせ、ジウノスには全体のサポートを頼り、キーラには回復を頼りっぱなし。
頼りっきりだったんだ。俺たちは。
別に頼るのが駄目という訳じゃない。
頼りすぎるのが駄目なんだ。
ゲーム感覚で半ば諦めていた俺は仲間たちに頼りっぱなしで、変にプレッシャー感じて。
上手くやらなきゃ成功しなきゃと思う反面、負けても別にいいやと軽い気持ちで。覚悟なんて一切なかった。
だから、準備を怠って魔王に敗れた。
頼りっぱなしだったから、いざそれが崩れると立て直せなかった。
「ナファセロちゃんの責任じゃなく、私たちの責任です。――だから、もう自分だけを責めないで?」
魔王は全てを包み込むような優しい言葉で、ナファセロを宥めるように頭をなでる。
それが彼女のたがを外したのか、ナファセロは子供のように泣きじゃくった。
「もう、こんなに泣いて。……リヴェリアくんに見られたら、また「親子みたい」って馬鹿にされちゃいますね……。勇者アルヴェリオ、スカルウェイン。ごめんなさい、見苦しい所を見せてしま――」
「ああ、本当に親子みたいだよ。お前らはさ」
「……人が悪いですね、今の聞こえてたんですか?」
「勿論、全部聞こえてるよ。魔王になっても変わって無いようで安心したよ」
「な、何を言って……?」
「相変わらず俺をくん付けで呼ぶところとかな。出会った時からお姉さんぶって振舞ってたけど、全部空回りしてたっけ?」
俺の言葉に、魔王は信じられないといったような表情でピタリと動きを止める。
数秒後、魔王は口を開き、確かめるように言葉を発した。
「――リヴェリア、くん……?」
「……久しぶりだな、キーラ」
魔王――キーラは、ナファセロを抱きしめたまま右手で顔を隠す。
そして、肩を震わせながら静かに呟いた。
「こんな、こんな事って……神様、ありがとう……」
そう呟いた彼女の頬には、涙が流れていた。
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