第百七十一譚 罠師の本領発揮


「あそこだ!」


 メリアが指差した先に視線を向ける。

 そこに、ガーゴイルたちに囲まれながら戦っているセレーネたちの姿を確認した。


「アザレア! 一発大きいの頼めるか!?」

「アタシを誰だと思ってるのよ! いいわ、ぶちかましてあげる!」

「絶対にセレーネたちには当てるなよ!」

「言われなくたってわかってるわよ!」


 アザレアは足を止め短杖を構えると、彼女の周りに土煙が舞った。

 足元の魔法陣が時間と共に拡大されていく。


「いくわよ! ”氷柱刃アイシクル・ブレイド”!」


 次の瞬間、ガーゴイルたちが集まる一角に大きな魔法陣が出現する。

 ガーゴイルたちが異変を察知したのか上空に逃げようとするもすでに遅く。


 地面から巨大な氷柱が勢いよく何本も突き出てくる。

 その一角のガーゴイルたちは皆、氷柱に貫かれるか凍結し、セレーネたちの脱出口が開いた。


 俺は大急ぎでそこに向かい、空いた部分を埋めようと群がるガーゴイルたちを斬りつけていく。


「アルっち!」

「ごめんなさい、見つかってしまいました!」

「とりあえず早く出ろ! こいつら相手に物理戦闘は厳しい!」


 セレーネたちはアザレアの魔法によって開かれた脱出口から包囲を抜け出す。

 しかし、シャッティだけは脱出口から出ようとせずにしゃがんで何かをしている。


「何してんだ! 早く出ろ!」

「――よーし! 今出るよー!」


 シャッティは向かってくるガーゴイルたちを軽く躱しながら、俺のもとまで走って来た。


「走るぞ!」

「うん!」


 シャッティを先に行かせ、俺は後方から向かってくるガーゴイルを迎撃しながらその場を離れていく。


 だが、目の前を走るシャッティは突然にこちらを向き、弓を構えた。


「お前何して――!」

「避けてね、アルっち!」


 その言葉と共に、矢が勢いよく放たれた。

 矢は俺の眼前に迫り、頬を掠めることなく後方に飛んでいく。


 俺は矢に釣られるように振り返ると、その矢は真っ直ぐにガーゴイルたちの中心に向かっていた。


 矢が一体のガーゴイルに突き刺さる。

 すると、突き刺さった部分に魔法陣が現れ、すぐにガーゴイル諸共爆発した。


 爆発の衝撃により、ガーゴイルたちが怯みながら少しだけ後退する。

 シャッティはこの時を待ってましたと言わんばかりに声を上げた。


「ぴったり!」


 瞬間、ガーゴイルたちの足元で大きな爆発が起こる。

 爆発はガーゴイルたちをも巻き込み、黒煙が空に上がった。


 石片が飛び散り、煙が晴れたころにはガーゴイルの姿は跡形も無く消え去っていた。


「嘘だろ……」

「ふっふーん! 大当たりー! これがトラッパーの実力だよー!」

「やっぱりシャッティは凄いな……改めてお前の実力を思い知らされたよ」


 まさかあの一瞬でここまでの計算をしていたのだろうか。

 罠を仕掛け、ある程度遠くまで逃げたところでダミーの魔矢を放ち爆発させ、ガーゴイルたちが警戒して下がるその時に本命の罠を作動させる。

 あの数秒でよく思いついたな。


 罠の位置と魔矢を爆発させる位置、ガーゴイルたちが下がる位置まで計算に入れてたってことだろ?

 シャッティはやっぱり天才なのかもしれない。


「まあ、まぐれなんだけどねー!」

「俺の感動を返せ」

「――増援が向かって来てるわ! 急いでここを離れるわよ!」


 アザレアの声が聞こえてくる。

 やっぱり、もう手遅れだったみたいだな。


 ガーゴイルは魔法で何とかなるかもしれないけど、限界がある。

 シャッティの罠だって無限にある訳じゃないし、今みたいに巧く行くとは限らない。

 アザレアの魔力だって無限にある訳じゃないんだ。これからの事を考えるとできるだけ温存しておきたい。


 かといって、ここでどこか遠くに離れるっていうのもリスクが高い。

 隠れる場所が見つかるかもわからないし、もう周辺は囲まれているかもしれない。


 ――なら。


「皆、ちょっと一つだけ。話がある!」


 俺は皆のもとに駆け寄り、口を開いた。






□■□■□






「シャッティ、準備は出来てるか?」

「うん、いつでも大丈夫だよ!」


 地面に罠を設置しているシャッティに声をかける。

 シャッティは準備万端だと笑顔で答えた。


「まさかとは思ったけど、こうなるとはね……」

「仕方ないでしょ? だってリヴァよ、リヴァ」

「ふふっ、そうですね。アル様ですから仕方ありません」

「お前ら褒めてるのかそれ?」

「誉め言葉であろうな」

「むしろ誉め言葉以外の何なのか教えてほしい」


 何故だか馬鹿にされてる気がする。

 お前らあとで憶えとけよ。


「……どうやら来たようだ」


 メリアの言葉に全員の表情が一瞬で変わる。


「それじゃあ、手筈通りに頼むな。皆」

「任せて!」

「もう思いっきりぶちかますわ。なんだか今日はどんなものでもぶち壊せる気がするのよ」


 魔王城を背に、俺たちはこちらに向かって来ている魔物たちを体を向けて立つ。

 魔王城の周りを囲むように魔物たちが並び、俺たちは四方八方塞がれてしまっている状態だ。


 周りには魔物たち。後ろには魔王城。

 四面楚歌とはこういう事を言うんだろうな。


「魔物たちが一斉に動き出しました!」

「ジオ、ムルモア!」


 俺の合図で、二人が魔物の軍勢に向かって行く。

 魔物の軍勢は、二人の姿を見て完全に臨戦態勢に入った。


 勢いを増して向かってくる魔物の軍勢。

 ジオとムルモアは怯まずに立ち向かっていく。


 ――なんて、魔物たちは思っただろうな。


 二人は急に反転し、俺たちのもとに戻ってくる。

 それでも、魔物たちの勢いは止まらない。


 そう、これでいいんだ。


「シャッティ!」

「いっくよー!!」


 シャッティは懐からスイッチのような物を取り出し、それを押した。

 次の瞬間、俺たちの周囲で爆発が起こる。

 その爆発により、俺たちの姿は奴らの視界から完全に消え去った。


「行くぞ!」


 俺たちは魔王城のほうに体の向きを変え、走り出した。


「まさか本陣に突っ込むなんて魔王も驚きだろうね……」

「そりゃそうよ、アタシだって驚いてるんだから」

「ですが、それがアル様というお方です」


 爆発煙で稼げる時間は限られてる。

 魔物たちの中には気にせずに突っ込んでくる奴もいる。

 でも、その数秒があれば充分だ。


「アザレア、頼む!」

「ぶちかますわ! ”炎女神の一撃ヘスティアー・ブロウ”!」


 魔王城の門目掛けて放たれた魔法は、それを粉々に破壊する。

 門が破壊され、魔王城への入り口ができた。

 

「行くぞ、皆!!」


 俺たちはそのまま魔王城の内部へと足を踏み入れていった。

 

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