第百十七譚 戦争を止める手立て


「とりあえず、どうすればいいと思う!?」


 俺は真面目な顔でセレーネに問いかける。

 セレーネはため息を吐きながら考える様な仕草を取った。


「この戦争の指導者を倒す、あるいは停戦協定を結ばせるぐらいしかなさそうですね……」

「停戦協定か……」

「はい。一番被害を出さずに済みそうですが、双方の代表者になれる人材を探して説得しなくてはいけませんので、時間がかかるかと」


 双方の代表者になれる奴、か。

 つまりは結構な地位に立っていないとダメって事になるよな。


 連合側はどうにかなるとしても聖王側は――。


「いや、それだ。その手があった!」


 俺はセレーネの肩を掴んで話を続けた。


「ここにいるじゃないか! 双方の代表者!」

「ここに――ということは……まさか……?」


 俺が言いたい事が理解できたのか、セレーネは少しだけ顔を引きつらせて俺の言葉を待っていた。


「そう、俺たちだ!」

「やっぱり!」

「ここにいる兵士たちはお前の部下なんだろ? ならこの戦場で停戦協定を結んで、他の戦場にもそれが伝わったらいけるだろ、多分!」

「む、無理です! 例え、ここで停戦協定を結んだと声明を出したとしても、他の戦場にいる騎士たちが直ぐに対応してしまいます!」


 確かに、セレーネの意見も尤もだ。

 あの紅騎士のように、他の戦場にも騎士たちがそれぞれ戦っているんだろう。


 ここで停戦協定を結んだとしても、他の戦場にいる騎士たちが揃ってそれを認めなかったら意味がない。いや、戦場が混乱するってことでは意味はあるんだけども。


 ただ、俺たちが為したいのは本当の終結。

 それをやるためにはどうしたらいいか。


「勇者アルヴェリオ様! 勇者アルヴェリオ様は何処におられるか!」


 後ろから聞こえる俺を呼ぶ声に反応し、振り返る。

 振り返った先には、辺りを見渡す妖精族の姿があった。


 俺はその妖精族のもとに走って向かう。


「ここだ! 何かあったのか?」

「おお、勇者アルヴェリオ様! 時間がありませんので手短に伝えます! 現在、我々妖精族は各戦場にて敵軍を撃破しつつこちらへ向かっております! なのでもう少しだけ耐えるようにとアザレア王女殿下からの伝言です!」

「アザレアが!?」

「はい、王女殿下が駆けつけてからというもの我々の士気は大いに高まり、王女殿下も自ら戦場に赴いては敵将と思われる者を何人も撃破。瞬く間に西の戦場を平定させました!」


 妖精族の報告に、俺の胸の内が一気に熱くなる。

 

 アザレア、お前の為すべき事をしっかりとやり遂げたんだな。


「さらに東の戦場もトゥルニカ兵たちの手により優勢とのことです」

「東もですか……! アル様、今ならば!」

「ああ……! 停戦協定を結べるかもしれない!」


 俺は伝達してくれた妖精族に礼を言い、セレーネと共に戦場へ戻る。


 海鳴りの地には目立つような場所は一か所もない。

 だから、どうにかしてこの場にいる全員の注目を浴びないといけないんだが。


 さて、どうする……?


「セレーネ! どうにかして皆の注目を集める方法、何かないか?」


 俺の言葉にセレーネは小さく頷き、懐から細長い円筒状の道具を取り出した。


「それは?」

「長距離連絡の魔道具です。通信魔道具が使えない状況で使う信号弾を放てば、注目を浴びる事はできるはずです!」


 俺たちは先ほどまで戦っていた場所に戻ると、二人で魔道具を持ち天に掲げた。

 セレーネがボタンの様な物を押す。その瞬間、魔道具から一発の弾が空に打ち上げられる。


 上空で大きな破裂音と共に眩い光が地上を照らす。

 そのおかげで、ここにいる全員の視線が一気に集まる。


 しん、と静まり返った戦場で俺は言葉を発した。


「全員聞け!」


 上空に集まっていた視線が俺に向けられる。


「俺はアルヴェリオ・エンデミアン。連合側の人間だ! たった今、敵将のエネレスと停戦協定を結んだ! 双方は今すぐ武器を降ろして戦いを止めろ! 繰り返す――!」


 突然の出来事に、この場にいる兵士達がざわつき始める。

 そして、混乱の中一人、また一人と武器を収めていく。


「セレーネ……!」


 目の前の光景に居ても立っても居られなくなった俺は、顔を緩ませながらセレーネのほうに顔を向けた。

 セレーネも俺を見て微笑み、目の前の光景に安堵しているようだ。


「嘘をつけ!」


 しかし、丸く収まりそうだった状況に、一人の男が口をはさむ。


「エネレス様は男だ! そんな女偽者だ!」

「そ、そうだ! 皆騙されるな、連合側の罠だ!」


 聖王軍の兵士たちがセレーネを指さして怒鳴る。

 この展開には俺も驚きを隠せずにいた。


「お前ずっと兜着けて変声機使ってたのか……?」

「……っアル様、ごめんなさい……! 私の、せいでっ」


 セレーネの表情が曇る。

 先程の偽者発言で、むしろ辺りの聖王軍の士気が上がってしまった。


 武器を下ろしていた者たちも徐々に構え始めている。

 何とかしないと――。


「待て、貴様ら!」


 遠く――兵士たち後方から聞こえてきた男の声。

 兵士たちに囲まれたこの場所からでもわかる、巨大な影。


 この場にいる誰もが男に視線を向ける。

 

「あの方こそ我らが主、エネレスである! 双方、武器を収めるのだ!」


 再びざわつく戦場。

 さらに、もう一人。巨漢のほうから陽気な声が聞こえてきた。


「獣人族のみんなも武器を下ろしてー! わたしも代表でこの大きな男の人と協定結んだから!」


 その声は紛れもなく、俺の大事な仲間――。


「シャッティ!」

「ムルモア!?」


 この二人の登場により、再び戦場はざわつき始めた。

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