第三十四譚 アザレア・フェル・フィオレンティア
□――――エルフィリム:救護施設前【アザレアside】
グラジオラスと別れて数分。
アタシとセレーネは、大樹のすぐそばにある救護施設に無事に着いた。
ここに来るまでの間、魔物との遭遇はなかったけど、エルフィリム周りの戦闘は激化している。
兵達が倒れていく音、魔物達の悍ましい叫び声。
そんな耳障りな音が、今もなお続いている。
「あぁ……もう、うるっさいわね……」
耳が良過ぎるのも考えものだ。
こんな音を聞いてると、どうにも苛立ってきてしまう。
「どうかしましたか?」
セレーネが心配そうに問いかけてくる。
どうやら、苛立ちを言葉にしてしまっていたらしい。
昔からなんだ。こうやって、思ったことをすぐ口に出してしまうのは。
「なんでもないわ。それより、アンタはここで待機しておいて。ここなら安全だから」
「あの……っ! 私にも何かできる事はないでしょうか……!?」
「無いわね」
アタシはまた苛立ちを覚える。
恐怖しながらも、決意に満ちた目。こいつの顔を見ていると腹が立ってくる。
弱いくせに何かをしようとする、そんな奴は嫌いだ。
弱かったら何もできない、何も守れやしない。そのくせ、弱い奴に限って強くなろうともせず言い訳ばかり。
強くなくちゃ何の意味もないんだよ。大切な奴だって守れやしないんだ。
だからアタシは――
「傷ついた方を治療する事ならできます……!」
「……そう、でもアンタはここで待機」
「ですが……っ!」
「弱いのにでしゃばらないで」
アタシの言葉を聞いたセレーネは、一瞬だけ目を見開いて驚き、悔しそうに目線を下に外して俯いた。
本当はここまで言うつもりはなかったけど、あまりにも苛立ちすぎて言ってしまった。
でも、それがこいつの為になるでしょう。
自分が弱いという事を認識すればそれだけでだいぶ変わるでしょうし。
「そんなんだから、アルヴェリオもいなくなるのよ」
「そ……れは……」
その言葉がよほど効いたのか、セレーネは俯いていた顔をさらに俯かせた。
「じゃあ、アタシはもう行くから。ちゃんと待機してなさいよ」
俯いたまま黙り込むセレーネを背に、アタシは足早に救護施設を後にした。
□■□■□
「わかってるわよ、それじゃ」
グラジオラスに報告を済ませたアタシは、音が酷い南側に向かって走りだす。
エルフィリムへの入り口がある北側はアドニスに任せておけば問題なしだけど、それ以外の場所はかなり厳しい。
なぜなら――
「お前……! “
「貴様こそ、自分の身をわきまえたらどうだ?」
この国では、こういった問題を抱えているからだ。
妖精族には、大きく分けて四種類存在する。
一般の妖精族で人口が一番多い“
普通の妖精よりも魔力が高く、貴族や王族といった高い身分であったり、そういった先祖を持つ者を“
妖精族だけの血ではなく、他種族の血を受け継いでいる者を“
生まれつき髪が黒く、魔力量が高位妖精と同格である者を“
種族内でも、こういったように種別化されていることにより、この国では差別や迫害が絶えない。
中でも、高位妖精はプライドが高く、他の妖精と一緒にされる事を嫌う。
外部から、妖精族の事をまとめて妖精と言われている事に怒りを覚えている者は多い。
やっぱり、どの種族であっても差別というのは起きるものなんだ。
「なんだと……っ! お前――!」
「アンタ達何してんのよ」
妖精達が集まっている場所まで近づいたアタシは、もめていた奴らに向かって声をかける。
「これはこれは、誰かと思えばアザレア王女様ではありませんか」
争っていた高位妖精の一人が、アタシに話しかけてくる。
「いえ、この妖精共が身分をわきまえず、我々高位妖精に向かって最前線で戦えとほざいてきましてね」
「お前……! 状況を考えろよっ!!」
その高位妖精の言葉に、妖精の男が飛びかかろうとする。
しかし、後ろにいた仲間と思われる妖精達に宥められるように止められた。
「すみませんでした……! どうか、どうか彼を許してください! 彼はまだ若く、こういう問題の事をよく理解していないだけですので!」
飛びかかろうとした男を止めた仲間の妖精が、アタシに必死で弁解してくる。
なんというか、もう、こういうの。
鬱陶しい。
「そこのアンタ、自分より身分が上の相手に突っかかるのは止めなさい。大した力もないくせに正義感だけでそんなことして楽しいわけ?」
「なっ……!?」
「弱いなら弱いなりに大人しくしてなさい」
「お、王女様……」
妖精達が驚いた様子でアタシを見ている。
別に驚く必要はないでしょう。何も間違ってないんだから。
「ははは。流石わかってらっしゃいますね、王女様」
「……所詮、王女も高位妖――」
「それでも」
彼等の言葉を遮って、少しだけ大きな声で言葉を発した。
「どうしても許せないなら、這い上がればいいのよ。努力して努力して、強くなってアンタが高位妖精になればいい。弱いなら弱いなりに頑張りなさいよ!」
「アザレア王女……」
「それとアンタ」
アタシは高位妖精の方に向き直り、話を続ける。
「身分が上だからって何? 弱い奴に権力振りかざして何が楽しい? 呆れた。身分が上だからこそ、下の者達よりも前に立って戦うんじゃないの?」
「し、しかし――」
「テメエが高位妖精だか妖精だかなんて関係ねえだろ!? 今の状況考えろタコ! あァ!? 今は種族内でもめてる場合じゃねえだろ!? 一つになんなきゃいけねえんだよ!!」
我を忘れ、気付けば周りの妖精達が口を開けて唖然としていた。
やっべえ……やっちまった。この口調だけは出さねえようにしてたんだけどな。
「……とにかく、アタシが言いたいのはそれだけだ。じゃあ、もう行くから」
妖精達に背を向け、アタシは歩き出し、少しだけ振り向いて声を出す。
「アタシは好きだぜ、皆まとめて
その言葉の後、二度と振り返る事無く目的地に向かってアタシは走り出した。
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