第48話 莉音vs音無 再び
結局こうなった。
もし、今の情景を正しく表すのなら、この言葉こそが最も適当だろう。
『『ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ──ッッ!!』』
反響するガチャガチャ音。
とあるゲーセンの一角では、物凄い勢いでの連打やレバーの操作により発生する音が、津波のように辺り一帯を呑み込む。
「なぁ……あれはなんだ?」
「あの二人って、そんなに仲悪いの?」
「それとは少し違うな。けど……」
反応に困っている二人の友達。
俺たちの目の前で繰り広げられているのは、いつかの再戦の光景。初めて見る二人とは違い、こうなるんじゃないかと薄々勘付いてはいたのだ。
「"船を沈め釜を破る"とは言うが、もう楽しくゲームをしようとも思ってないな……」
ゲーム機を通して戦争でもしているよう。
それが、俺たちの目の前で繰り広げられる『莉音vs音無』の一騎打ちである。
(結局こうなったじゃねぇーか……)
最初は俺と紀文に綾波、そして莉音の四人だけで訪れたゲーセン。そこへ、待ってましたとばかりに偶然居合わせた音無。
莉音と音無は互いの存在を認め、すぐに近くにあった格ゲーで対戦。そして現在に至ると言うわけだ。
「なんだか、邪魔したら殺されそうだ……」
「なによ多田、情けないわね」
「ほっとけ。それならお前が止めてみろよ」
「嫌よー。私はまだ死にたくないし」
「おまっ……人に情けないとか言っておきながら、自分は行かないのかよ!?」
「当たり前でしょ。自分の命と多田の命、天秤にかけるまでもないってーの♪」
「満面の笑みでなんつーことを……」
「……お前ら、仲良いのは結構だが早く止めてこい」
「「アンタ(お前)こそ行(けよ)きなさいよ!!」
ええ、本当に仲がよろしいようで。
(この二人って、案外良いカップルになりそうなんだけどなぁ)
冗談じゃないと、両方から怒りを買いそうなので決して口には出さない。けれど仲は良好である事は確実だろう。
それはそうと、莉音と音無を何らかの方法で止めないと雰囲気が悪くなる。
「止めたい。止めたいが……無理だろ?」
「そもそもこの対決って、お前を巡ってのものだよな?」
「アンタがはっきりしないから、こんな事になってんじゃないのー?」
「そんなこと言われても……。多分、俺とか関係なく犬猿の仲なんだよ。だから出会っちまえば、こうなるんだろ?」
人間、どうあってもソリが合わない相手は存在する。そんな相手とは一生仲良くなれないし、会えば争うだけだ。
「誰かが割って入るのは難しいぞ。決着がつくのを待つ方が、安全で確実だと思う」
「いや、険悪な雰囲気がビンビンなんだけど……。本当に大丈夫なのか?」
「…………少なくても音無は楽しそうだから、大事には至らないだろ。たぶん……」
廃人レベルのゲーマー音無の相手になるプレイヤーなど、そう簡単には見つからない。ネット越しなら、いくらでも見つかるだろうが、
そんな中で出会った莉音という存在は、音無にとっては幸運と言えよう。もちろん犬猿の仲に変わりはないが、寧ろ、だからこそ負けられない相手になった。
(まぁ……莉音はいい迷惑だろうけど)
音無がじゃれ合いのように接するのに対して、莉音の場合は明確に敵として認識して接している。そこには当然友情はないし、遊んであげる義理もない。
「莉音ちゃんは、こっちまで怖くなるくらい敵意を感じるんだが……。本当に大丈夫なんだよな陽太……?」
「うん、あれはちょっとヤバいよ? 冗談でも何でもなく、沢田妹は危険だと思う……」
「…………大丈夫だよ?」
「自信なさげに言うなよ……」
何気に怯えてる様子の紀文たちを無視して、莉音たちに視線を移す。
もう何戦目なのか、二人は一向にコントローラーから手を離すそぶりがない。どちらが優勢なのか劣勢なのか、それを確認したいと思うが近付きたくはない。
(どないせーっちゅうんや?)
何を言えば止まるのか、皆目見当がつかないのが本音だ。どちらかに加担すれば、余計に状況を悪化させるのは目に見えている。
(……やっぱ、静観するか?)
『『ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ────ッッ!!』』
今もまだ、二人のコントローラーは壊れんばかりの悲鳴を上げている。『ガチャガチャ』と泣き喚いている──そんな気がする。
『YOU WIN!!』
悩んでいる間に、何度目かの決着がついた音が響き渡った。だというのに、どちらも歓喜したり悔しがるような事はなく、ただその場で静観するだけだ。
次第に険悪なムードが晴れて、莉音と音無は脱ぎ捨てていた上着を着用する。そして、いち早く莉音が移動して、寄り添うように俺の隣を陣取る。
「次は勝ってみせます。もう少しだけ待っていて下さいね、兄さん」
莉音は表情こそ笑みを浮かべていたが、その瞳はこれっぽっちも笑っていなかった。
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