第42話 対戦3 エアホッケー
一勝一敗。戦績としては五分五分な結果となった両者の対戦。しかし制限時間までの余裕はまだある。
「最後がこれ?」
「ゲームセンターにあるんですから、これも立派なゲームです」
「そうかもしれんが……」
何となく納得できない。
莉音が指差すのは、格ゲーやガンシューティングのような、画面に映し出された敵を倒すものとは全く別のゲーム。
さっきまでの対戦とはまるで違う、そのゲームの名は──。
「エアホッケー。俺からしてみれば、ゲームっつーよりはスポーツに近い気がするんだけどな」
『エアホッケーも、立派なアーケードゲームだよ陽ちゃん』
「そうなの?」
『これで決着つける。時間もそれくらいしかないしね』
確かに時間に余裕はある。けれど何故か今日に限って客が多く、空いているゲームがあまりに少な過ぎる。
特に次の目当てであった音ゲーは人気で、すぐに順番が回って来そうにはない。
よって最後となる対決は、偶然見つけたエアホッケーとなったのである。
「そうです。最後の対戦には相応しいゲームじゃないですか」
「まぁ、そうだな。制限時間は……十分か」
今回のルールは五点先取。もしくは、制限時間内で点数の多い方が勝者となる。
こうして今、絶対負けられない戦いが始まろうとしていた。
莉音と音無は、ほぼ同時に上着を脱ぎ捨て俺に手渡す。ワイシャツ一枚となった二人は、さらに腕を中程まで捲って準備する。
格ゲーの時から気合十分であったが、お互い思った戦績を取れなかったためか、どこか焦りがある。
そのため、これが最後の対戦ということで、より一層燃え盛る炎のように、熱く熱く滾っているようだ。
(ほんと、これ……デートじゃない。絶対)
男を放ったらかして、女二人だけの世界に入り込む莉音と音無。お互いの望むもののために対峙する二人は、もう周りを一切気に留めてはいないだろう。
「じゃあ始めます」
「うん、きて」
それからは一心不乱に、二人はパックを打ち合い続ける。先制したのは莉音だったが、すぐに音無も返して同点。
どちらも鮮やかにポイントを狙い、そして華麗に防いでいた。
「ッ!」
「むぅ……」
何度目かの攻防で、パックの方が耐え切れず場外へと吹っ飛ぶ。一度仕切り直しをせざるを得ない。
同点ではあったが、この時の勝負の流れは、僅かに音無へ向いていた。そのため、まさかの仕切り直しとなった際には、莉音は薄っすらと笑みを浮かべていた。
「ふぅー……」
「…………」
「じゃあ、音無の方だな」
パックを拾い上げ、音無の方へとパックを滑らせる。そして再び、目にも留まらぬ速さでの打ち合いが始まった。
流れは一度切れて未だ同点である。ここで先手を取った方が、ゲームの流れを支配することになるだろう。
今度も莉音が先制して流れを掴み、続け様に連続得点を獲得し、三点対一点となった。
「よし──っ」
「……」
多少追い込まれた形になった時、今度は音無が強めに打ち付けて、再びパックが外へと飛んだ。
「ふぅ」
「くっ……」
音無は一度ゆっくり呼吸を整えて、まるで動じた様子はない。逆に莉音は苦々しく呻き声のようなものあげる。
二人の反応から察するに、音無はわざと場外へパックを飛ばしたようだ。
(って、そんなの狙って出来んの?)
恐らく音無は、先程莉音がたまたまパックを飛ばして流れを変えたのを見て、今度は自分がそれを意図的に実行したのだろう。
しかし、時間がないなかでそんな事をするとは誰が思うか。流石の莉音もこうなるとは思っていなかったようだ。
「てい──ッ!」
「ふんっ……」
残り時間は二分を切っている。
ここで莉音にポイントが入れば、ほぼ確実に莉音の勝ちになる。だが──。
「やあっ!」
「しまっ……」
そう上手くはいかないらしい。
音無は不利な状況のなかでも、冷静に得点を決める。これでまたも、流れは音無に傾き始めた。
パックは莉音の元へ、素早く鋭い一撃が音無へと向かう。しかし先程のお返しとばかりに、音無も連続得点を見事に決める。
これで三点対三点。
残り時間は一分を切っている。五点先取をするまでもなく、次で決着がつく!
「まだ……まだっ!」
「こっちだってええッ!」
音無にしては珍しく叫びをあげ、それにつられるように莉音も応える。
どちらが勝利してもおかしくない。白熱した試合が展開されていた。
「ふっ──」
「はっ!」
「イヤ──ッ!」
「まだッッ!」
どちらも息は乱れ、ちょっとでも油断した方が負ける緊張感。永遠に続いていくかのような攻防は──。
『ビィィィィィィ──ッッ!!』
「「…………ッ!!」」
無情にも時間切れという形で、敢え無く終わりを迎えるのだった──。
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