第220話 結納(3)

南の希望通り、家族揃っての写真も撮リ終えた。


「んじゃあ。 席のほうはホテルの人が案内してくれるから。 あとはご両家で、」


南が仕度をして、帰ろうとすると、斯波は慌てて


「ちょ、ちょっと・・」


彼女の腕を掴んだ。


「あ?」


斯波は彼女にこそっと、


「・・一緒にいてくれよ、」


と懇願した。


「はあ? だって・・あたし、お膳立てしただけで関係ないやん、」


「ここまでしておいて、逃げる気かっ!」


怖い顔をいっそう怖くして言われてしまった。


「に、逃げるって。」


「どーしていいかわかんねーだろーがっ! 絶対、沈黙続くし! 場をつなげろ!」



むちゃくちゃやん・・。



南はため息をついた。


そこに、斯波の母が


「南さんも一緒に食事しましょうよ。 ね? せっかくだし、」


と言ってくれて、斯波もホッとした。




「ほんっと、もう。 あたしなんかお邪魔なのに~。 すみませんねえ、」


真太郎が心配したとおり、南は両家の結納の席に同席することになってしまった。


「いいのよ~。 南さんがいたほうが楽しいし。」


斯波の母は言った。


萌香の母も、斯波の父も斯波も萌香も無口なので、この二人のしゃべる声だけがそこには響き渡っていた。



ひととおりの形式を済ませて、和やかに食事をしていると


南が


「ちょっと。 斯波ちゃん。」


と彼を小突いた。



「あ?」


「とりあえず結納も入籍も終わっちゃったけどさあ・・。 ちゃんと挨拶しなくちゃ。」


小声で言う。


「あいさつ?」


「萌ちゃんの・・お母さんに。」



う・・・


斯波は非常に避けたい状況になってきた。



しかし


南の言うことも、もっともではあるので。



「あのう・・」



勇気を振り絞って、大きな声を出し萌香の母に声を掛けた。



「え、」


萌香と母は彼を見た。


「・・・だ、黙って・・入籍をしてしまって。 ほんと・・すみませんでした。」


斯波は頭を下げる。


萌香の母は戸惑いながらも


「・・それは・・別に。 あんたらはもう夫婦も同然やと思っていたし、」


と言った。


「いえ。 やっぱり籍を入れるということは、お義母さんにも・・ウチの『両親』にもきちんと報告しなければならないことで。 おれは、ずうっと・・一人で生きてきたと思ってきて、親なんか関係ないと思っていましたから。 でも、離れ離れになっても、やっぱり『親』だし。 血のつながりは、どーしようもないですから。 萌香とお義母さんの間も、今までいろいろあったと思いますが。 ・・やっぱり・・『お母さん』ですから。」


「清四郎さん・・」


萌香は突然そんなことを言い出した彼に驚いた。



「萌香さんを、おれに・・ください。 ずっと、一生、幸せにしますから。」


斯波は静かに頭を下げた。



萌香はこぼれてくる涙を抑えることができなかった。



萌香の母はふっと微笑んで、


「・・あたしは。 この子に母親らしいことなんか何一つしてこれへんかったから。 親だなんて言われるのも恥ずかしいくらい。 少なくとも、あたしといるよりは・・あんたといたほうが萌香は幸せになれるって・・思ってるから。」


小さな声でそう言った。


「お母さん、」


萌香は母を見た。



「・・よろしく。 お願いします・・」


自分のために頭を下げる母・・


生まれて初めて見るその姿に、萌香はハンカチで顔を覆ってしまうほど泣いてしまった。


「萌ちゃん、」


南ももらい泣きをしてしまい、そっと彼女の肩に手をやった。



斯波の父も母も


優しい優しい瞳で


息子たちの晴れ姿をゆったりとした気持ちで


見つめていた。



バラバラになった家族が


子供たちのために


ひとつになれた。



もうそれぞれの幸せはあるけれど。


失った時間をゆっくりと取り戻すように。

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My sweet home~恋のカタチ。4 --Moonlight blue-- 森野日菜 @Hina-green

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