第214話 後押し(1)
「もー、そんなイジワル言わないの! 大事な萌ちゃんが取られちゃったからって、」
側で聞いていた南が志藤の背中を叩いた。
「おれだってなあ・・ゆうこと結婚するって社長に言うたとき! どんっだけ嫌味言われたか。 いまだにあの人は、おれには嫌味100%やし!」
志藤は鼻息を荒くして言った。
「まったく。 あんたらはさあ・・社長だって青天の霹靂やったと思うよ。 あんたとゆうこがデキてたなんて、全く思いもしなかったし。 社長もゆうこのことほんまに信頼して大事な秘書やったし。 しっかも・・いきなり妊娠させるしさあ。 しまいにゃ、ゆうこを家庭に引っ込めちゃうし。 社長が嫌味言いたくなるのもわかるって。 斯波ちゃんたちは誰もが納得するカップルやし、結婚だっていづれこーなることわかってるやん、」
南の言うことがいちいち図星だったので、志藤はムッとしながらも、
「・・ま。 おれも栗栖が幸せそうな顔してるのは。 嬉しいけど。 ・・これで彼女の望みやった子供だって。 何の差し障りもなくなるし、」
ちょっとため息をつきながら言った。
「子供かあ。 まあ、女心としてそれはあるよね。」
南は大きく頷いた。
「ま。 栗栖を泣かすなよ。 おまえはもうぜんっぶ彼女がわかってくれてるって甘えてるし。 これからは・・責任もって彼女を幸せにしないと、」
志藤の言葉に斯波は
「・・はい。」
神妙に頷いた。
「で! 式は? どうすんの?」
南がぱあっと明るい顔で身を乗り出した。
「は? 式?」
斯波はいきなりのことに面食らった。
「結婚式! どこでするの? 二人だけでこっそり~とかはないよね~?」
「し、式? って・・あんま考えてなかったけど、」
「え! 考えてなかったの? ちょっと! 志藤ちゃん!!」
南は芝居がかったように、オーバーに志藤の腕を揺さぶった。
「それはアカンなあ。」
志藤も深刻そうな顔で頷いた。
「は?」
「おまえはどうでもええねん。 でも! 栗栖はあんっなに美しいのに! ウェディングドレスも着せてやらないつもりか?」
グサっと心に突き刺さった。
「そ・・それは・・」
正直
式を挙げること自体、何も考えていなかった。
「そーそー。 萌ちゃんはもう斯波ちゃんと結婚できればいいってそれしか望んでへんと思うけど。 あたしらはとっても見過ごせないよ~。」
南のねっとりと張り付くようなセリフに斯波は八神の北都邸でのパーティーを瞬時に思い出してしまった。
ま
まさか!!
あんなこっぱずかしいことを・・
おれにやれって??
どんどん汗が出てきた。
「それに。 あんた、萌ちゃんのお母さんにさあ、ちゃんと挨拶したの?」
「は??」
またもドキンとした。
「え! してへんの? 結婚すんのに挨拶もナシ?」
志藤もオーバーに驚いた。
「・・あ、あいさつ??」
「まあ、萌ちゃんもお母さんとはいろいろあったけど。 今はようやく落ち着いてお母さんも頑張って仕事してるんやろ? どんな経過を辿ったとしても。 お母さんにとってはたった一人の肉親で娘やん。 ちゃんと挨拶くらいしないと!」
南は語気を強めてそう言った。
「な・・なんて言えば・・」
普段は冷静な斯波がかなりうろたえているのが二人はおもしろくなってきて、
「そら・・『お嬢さんを下さい!』やろ。」
志藤は大真面目に言った。
「へっ!!」
ドラマでしか見たことがないその光景。
自分が??
斯波は思わずドンと壁に背中をつけるほど、動揺した。
け
結婚って
なんて面倒くさいんだ・・。
斯波は心拍数が上がってくるのが自分でもわかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます