第209話 憶測(2)

あたしってば


とんでもないものを見てしまったんじゃないだろーか・・。



夏希はドキドキした。



『婚姻届』って


え、誰と?



って、


斯波さんとに決まってるよね。



え? 結婚するの? 


二人・・




夏希は二人のいきなりの展開に頭が混乱した。


もう萌香の名前の方には記入がしてあって、捺印もしてある。




な、なんで???




前に聞いた時は


『結婚って、そんなカンタンなものじゃないわよ。』


なんて栗栖さん、苦笑いするばっかりだったのに。



まさか・・


子供ができたとか!?


だって、こんないきなり結婚だなんて・・


やっぱ


妊娠しか考えられないよっ!!




夏希の妄想は暴走し始めた。




「あ、冷蔵庫にビール入ってるから。 飲んでもええよ、」


萌香が髪を拭きながらバスルームから出てきた。


「はあ、」


夏希は何となく彼女をジーっとみてしまった。



秋になっても


上はタンクトップ1枚で。




いつ見ても


ほんっと


すんごいプロポーション・・



ほんと


妊娠してんのかな???



夏希の異様な視線に気づき、



「なに?」


萌香は言った。



「え・・いえ・・」


「あ~、ここんところちょっと食欲なかったから、痩せたわ。 2kg、」


と笑う彼女に




食欲ない?


つわり??



夏希はどんどん考えてしまった。



妄想が止まらなくなった夏希は翌日、



「南さん、ちょっと・・」


夏希は休憩室から通りかかった南を手招きした。



「ん? なに?」


「・・あのう・・」


夏希は周囲をキョロキョロしながら南を部屋の隅に連れて行った。




「はあ? 萌ちゃんが? ウソっ!!」


「なんか妊娠してるんじゃないかなあって・・」


「しかも・・婚姻届?」


「だっていきなりすぎないですかあ? なんかあったとしか思えませんよ、」


「確かに。 みんなであんだけつっついても結婚しようとしなかった二人が・・」


「本部長、なんか言ってませんでした?」


「え、全然。 え~? マジ? できちゃった結婚??」


妄想は二人分膨らんだ。




南に知れてしまったこの事実は


二人だけの間には収まらなかった。





「ほんとですかあ?」


玉田は驚いた。



「それは、ありえへんやろ、」


志藤だけがブスっとした顔で苦々しく言った。


「え、なんで?」


南が言うと、



「栗栖がおれにそんな大事なことを黙ってるわけないやん! おれと栗栖の間柄やで!」


ムキになって言う彼に、



「って、ただの上司と部下やん・・オーバーな。 自分、萌ちゃんのなんのつもりやん、」


南は軽蔑したような目で彼を見た。



「秘書やろっ! 秘書っつったらなあ・・ヨメの次におれのことをわかってないとアカン存在やん!」



「それは志藤ちゃん目線やろ。」


南は呆れた。




「や、それぜったいにデキ婚ですよ。」


八神はもっともらしく頷いた。



「そうかなあ、やっぱり・・」


夏希は宙を見た。



「婚姻届に萌ちゃんの名前だけ入ってたってことは、もう出すのも時間の問題ってことやん。 それまでナイショにしておくつもりかな・・」



南の言葉に




「コトは極秘に進んでるようやな・・」



志藤はうーんとうなった。


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