Process
第154話 4年(1)
萌香が東京にやって来てから
4度目の春を迎えた。
「・・・ばえっくしょんっっ!!!!」
残業中の静かな空間に大きなくしゃみが響き渡った。
「あ~~~~、もう! うるせえ!」
八神はそこにあったテイッシュの箱で夏希の頭をひっぱたいた。
「したくなくても出ちゃうんですよっ!! あ~、まさか花粉症になるとは・・」
夏希はまた大きな音を立てて鼻をかんだ。
「鼻の下が痛い・・」
そうこうしているうちに
志藤もくしゃみを連発しはじめた。
「あ~~~、くしゃみって伝染すんな。 も~~、目もかゆいし、」
同じく花粉症の彼も嫌な季節を迎えていた。
「大丈夫ですか?」
萌香が新しいテイッシュの箱を差し出した。
「あー、ありがと。 花粉症の薬飲んでると眠くなってくるし、」
「車の運転もしないほうがいいですね。 明日の外出はやっぱり電車にしましょう、」
にっこりと微笑んだ。
すうっと部屋を出た萌香を目で追いながら、
「あ~、おれもあんな風に構われたい、」
八神はボソっと言った。
「もう何を言ってるねん。 八神もパパやろ~? 美咲ちゃんの具合、どう?」
南がやって来た。
「つわりはほとんどなくて。 メシ、ばくばく食ってますよ。」
「でも大事にしてやらないと。 まだ仕事行ってるんやろ?」
「ギリギリまで行きたいってゆーんで。 ま、旅行はダメになっちゃったけど・・安定期に入ったら、近くにちょこっと旅行でも行こうかって。」
「もー、幸せくんですねえ、うらやまし。」
夏希がからかった。
「・・次は加瀬の結婚式で盛り上がれるかな~、」
八神はちょっと意地悪くそう言って笑った。
「ハア? あたし??」
夏希は驚いて自分を指差した。
「アハハ! 加瀬なんかまだまだやって! それよりさあ・・うちのビッグカップルがおるやん、」
南は声を潜めて、難しい顔で書き物をしている斯波を指差した。
「ま・・栗栖はともかく。 斯波にはまだ結婚なんて文字は頭にないやろな・・」
いきなり背後に志藤が立っていたのでみんな驚いた。
「なに、あんたいきなり・・」
南は思わず二度見してしまった。
「でも・・栗栖さんも30ですからね。 女の子としては複雑なんじゃないでしょうか、」
玉田も話しに加わってきた。
「なんで結婚しないんでしょーか? もう夫婦も同然って感じなのに、」
夏希も声を潜めて言った。
「・・斯波は、まあ・・自分が幸せな家庭に育てられてこなかったってのがあるのかもしれへんけど。 結婚に対して希望が持てないっつーか、」
志藤が冷静に分析した。
「でも。 きっと栗栖さんはプロポーズを待ってるかも、」
夏希は萌香の気持ちになりちょっとしんみりした。
「なんか・・きっかけとかあればね~。」
南の言葉に、八神は大真面目な顔で
「・・んじゃあ・・コンドームに穴開けちゃうとか!」
ものすごく名案を思いついたかのように言ってきたので、
みんな一瞬の呆然の後、爆笑してしまった。
「もー!やだ~! 八神ってば!!」
南は八神の背中をバシバシ叩いて大ウケしてしまった。
「ほんっと・・八神さんって下品ですよねっ、」
夏希は顔をしかめた。
「え~? なんで? それっきゃないじゃん・・」
「全く・・八神は。 あー、そういえばあの時もおかしかったよね、」
玉田が思い出したように言う。
「え? なに?」
「ほら・・斯波さんが栗栖さんとつきあってるって・・みんなの前で言ったとき、」
南と志藤はぱあっと思い出したようで
「ああ・・あの時! そうそう! 八神、おかしかった!」
笑い始めた。
「え? なんですか? ソレ・・」
夏希が興味津々に聞く。
「あれは! 玉田さんにハメられたんだっ!」
八神は苦々しい顔で言った。
その時、
「・・ったく、うるせ・・」
斯波がその騒ぎにあからさまに嫌な顔をして、タバコを手に席を立ってしまった。
「あ・・すんません・・」
志藤も思わず謝った。
「え~~、なんですか? その話、聞きたい~、」
夏希が地団太を踏んだ。
「・・3~4年位前やったかな・・斯波が真尋の公演のロンドンから帰ってきた時に・・」
志藤は宙を見てそのときのことを思い出していた。
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