第151話 繋がる(2)

2日間腹痛と戦った真尋は


見た目にもげっそりとしてしまった。


本番直前まで


病院で点滴を受け、食べ物も口にできずにフラフラだった。



普通に歩くことさえ


大変な状態なのに。




斯波は


やはり


思い切ってキャンセルすべきだったのか、と少し後悔し始めていた。



「大丈夫。 斯波っちは見てて。」


真尋は燕尾を着ながら、ニヤっと笑った。



ひとつ大きく息をつき


真尋は光のステージに背筋を伸ばして歩き始めた。



ここ2日間はオケとの練習もできなかった。



しかし


真尋のピアノは



すうっと


その中に溶けていくように


なんの違和感もなく



ひとつの


音になり


空気のように


辺りを包み込む。




こいつは


このピアノで全ての運命を呼び込み



本当は


おれたちなんかの力なんかひとつも必要なくて。



こうして


世界中の人たちを


一瞬のうちに虜にして。



斯波はまぶしそうに舞台上の真尋を見た。



舞台袖ではまだまだヘロヘロだった彼は


ウソのように


力強いピアノを弾き。


一点に集中していることが


背中越しに怖いほど伝わってきた。




シェーンベルグ氏も


このピアノを聴いて


生きることに執着したんだ。



その気持ちは


すごく


よくわかる。



命を賭けて


真尋にピアノに魂を吹き込んだ。



それは


彼の音の中に


生きている。





いつの間にか


最後まで弾けるだろうか、と心配していた気持ちがどこかへ行ってしまった。


斯波も


観客の一人になって


真尋のピアノに


魂を抜かれた。




志藤は


落ち着かない様子で、コーヒーを飲みに席を立ったり、タバコを鬼のように吸ったり。



そして


午後3時ごろ


携帯が鳴った。


「はい、」


心持ち焦ってそれに出る。


「あ・・斯波です、」




その声は


いつもの彼じゃないような気がして、


「斯波?」


と聞き返してしまった。



「今、コンチェルト・・終わりました。」


「ま、真尋は、」


「楽屋で・・眠り込んでます。」


電話をする斯波は傍らでソファに丸くなってぐったりとしている真尋を見下ろした。



「・・信じられない力を・・出してくれて。 ほんっと、コイツ・・人間じゃねえって・・」


泣いているんじゃないか、と思うほど


声が震えていた。



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