第111話 再会(3)

彼女の


細くしなやかな身体を


抱きしめながら



ひょっとして


もう会えないのではないか



心が潰されそうなほど


悩んだ毎日を


思い起こす。






確かに


彼女は自分の胸の中にいる。





あの時と同じように


彼女は


泣いていた。





「ほんまに・・ええの・・」




優しい


京都弁が耳に心地よくて




「・・一緒に・・いよう・・」



彼女の手を絡ませるようにぎゅっと握った。





彼女の過去が


もう永遠に封印したいものだとしても


どうでもよかった。



彼女と出会ってこの数ヶ月間の間


自分が肌で感じた彼女が


彼女自身に間違いないから




繊細で


頭が良くて


気が利いて


気持ちが温かくなる料理を作れて




そして




吸い込まれそうなほど


美しくて




彼女の罪も罰も


寂しさも


全てが彼女だとしたら





おれは


きっと全部を抱きしめることができる。




「・・離さない。 もう・・絶対に離さないから、」



彼女の頬に手を充てた。





ああ


信じていいんだ。


この人を


信じていいんだ・・





萌香は


生まれて初めて


人から信じられて


人を信じることができたような気がした




「・・もっと、」



「え?」



「抱きしめて・・強く、」




萌香は彼の大きな背中に手を回して


痛いほど


縋りついた





それに応えるように


もっと激しく


彼女に身体を絡ませる。





なんだ・・


おれも


人を愛せるんだ・・





斯波はこの愛しすぎる存在を


大事に大事に抱きしめながらそう思った。





彼もまた


愛し


愛されることを忘れた自分を


彼女が


変えてくれたことを


心からの


喜びとして


感じ入っていた。

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