第52話 すれ違い(2)

そのまま南のテンションとともに盛り上がり、2次会のカラオケまで行ってしまった。


しかし


こういう場が苦手な斯波は、1分でも早く帰りたかった。


「ちょっとお・・ほんっと一人つまんなそーな顔してさあ、」


南がからんできてそうもいかず・・



萌香は久しぶりに飲んでしまって、カラオケでは隅のほうで寝込んでしまった。


「だいじょぶか?」


斯波は気にして彼女に声をかける。


「・・ん・・あ・・はい、」


と返事をするが、この大音響の中でもほとんど熟睡してしまうほど彼女は眠ってしまった。



そしてなんとかお開きになったのが午前1時過ぎ・・



「も~~、のめない~、」


八神が玉田に縋りつく。


「もう飲まなくていいんだよ・・ほら、タクシー乗るよ。」


玉田は八神をタクシーに押し込んだ。


「んじゃ、おれはコイツ送って帰るから。」


志藤はつぶれた南をおぶっている有様だった。


「まったく一人で盛り上がって、一人でつぶれるから。 んじゃ、おまえも栗栖を頼むな。」


と、こちらもつぶれかかった萌香を斯波に託した。


「頼むって・・」



もう、萌香は半分眠りながら歩いている状態で、腕を掴んでいないとそのままそこに寝込んでしまうのではないかと思われるほどだった。



何とかタクシーに彼女を乗せるが、そのまままた眠り込んでしまった。


タクシーが揺れて、斯波の肩にもたれてくる。


彼女のコロンの香りが漂う。



胸が


ドキンとした。


ふと彼女を見やると、大きく開いたニットのシャツの胸元から谷間が見える。



ゴーモンだ・・



目を逸らしながら、彼女が着ていたカーデガンで隠した。


なるべく平常心でいようとしても


心臓の音が外にまで聞こえてくるようだった。



おれ


なに考えてんだ・・



胸を押さえる。




「おい、ついたぞ。」


斯波はマンションの前までついたので彼女を揺り起こした。


「ん・・」


ぼーっと目を開ける。


「あ・・?」


「しっかりしろよ。 ちゃんと歩いてくれ、」


と、腕を引っ張ってタクシーから彼女を出した。


「す・・すみません・・」


ほぼ寝ぼけている状態だった。


「まったくもう、」


斯波は萌香の腕を掴んだ。



エレベーターに乗っても、立ちながら眠っている彼女に、


「ほら、」


到着したので、引っ張り出した。


「ここは・・?」


「だからウチだって。 カギ、開けて。」


斯波は言う。


「あ・・カギ、ですね・・」


萌香はバッグから何とか鍵を出す。


「ちゃんと寝ろよ。 じゃあな。」


「はい・・」




斯波も自分の部屋の鍵をあけて入っていく。



しかし


しばらくして嫌な予感がしてそっと玄関を開けて見ると、萌香が鍵を挿した状態でまだ眠っている。


「な、なにやってんだよ、」


「え・・? あ~寝てました・・」


「まったく!」



斯波はイライラして彼女の鍵を取り上げてガチャっと開けてやる。


「ほら、」


玄関の灯りのスイッチも押してやった。


「ほんと・・すみません・・」


萌香は呂律の回らない口でそう言った。


「ここで寝るなよ、」


と念押しした。


「鍵もちゃんとかけろよ。」


「はい・・」



斯波はドアを閉め、彼女が鍵をかけるかどうか確かめるために前に立っていたが、案の定いつまでたっても鍵が閉まる気配がない。


そのうちドサっと中で何か物音がした。


「おい!」


ドアを開けると、萌香は靴を脱いで上がっていたが、そこで寝ていた。


「だからっ!」


と、起こそうとすると



ふうっと彼女が抱きついてきた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る