第40話 守る(4)
「誰が何を言おうと。 私と彼女の間は変わらない。」
十和田は冷静にそう言った。
「高校生を囲うなんて・・犯罪ではないですか、」
志藤はだんだんと怒りさえこみ上げてきた。
その言葉に彼はふっと笑って、
「私は彼女の『後見人』や。 あの子は私がいなかったら、大学にも行かれへんかったし、一流企業にも就職でけへんかった。 しかも・・まだまだ売春を続けて生活していたかもしれへん、」
何もかも
わかりきって
勝ち誇ったかのように。
「もう、彼女は大人です。 普通の女の子の幸せを与えてやってください、」
このままでは
彼女は
本当の恋さえ知らずに
一生
終わってしまうかもしれない。
「それこそ余計なお世話だ。 私はどんな手をつかっても萌香を取り戻す。 まあいい。 この話はなかったことに。」
十和田は立ち上がって自分のデスクに足を運ぼうとした時、足元がふらついてデスクに倒れこむようになってしまった。
「どうしました?」
志藤が怪訝な顔をすると、
「・・いや。 もう、帰りたまえ。」
十和田は振り向きもせずに志藤にそう言った。
「今日、大阪に断りに行っているよ。 志藤さん、」
斯波は萌香にボソっと言った。
「え・・」
「きみをやめさせるわけにいかないって、」
萌香は体の力が抜けていく。
「・・断っても・・あの人はこんなことで諦めない、」
震える声で言った。
自分のために?
この条件のいい話を断るだなんて。
自分のために
ここまでしてもらったことなどない彼女は
戸惑い、動揺した。
「・・どうして・・」
長い髪をかきあげた。
「あの人、けっこう人情派だから。 おれよりもずっと。 仕事のために部下を犠牲にすることは、しないよ。」
「北都フィルのためにはいい話だったのに、」
「それよりも・・きみが大事だったんじゃないか、」
斯波の言葉は
とても信じられなかった。
そんなはず・・ない。
男なんか
みんな自分勝手で。
萌香はペンを持つ手が震えて止まらなかった。
そして、静かに席を立つ。
一人になれるところを急いで探した。
トイレの個室に入って、ドアを閉めたとたん涙が溢れてきた。
アホや・・
アホやんか・・
なんで、私のためになんか断るの・・?
あの人にとって
私なんか
いい部下なんかじゃないのに。
人から優しくされたことも、ない。
自分も優しくされたいとも思ってない。
志藤は8時ごろになり帰社した。
「う~~、さすがに週に2回、大阪日帰りは疲れる・・」
ドカっと椅子に座った。
萌香はそっと彼に近づく。
「あのう・・」
「ああ。 ちょっといい?」
と、彼女を応接室に連れて行く。
「断ってきた。 スポンサーの話は。」
志藤はタバコを手にする。
「・・はい・・」
萌香はうつむいて小さな声で言った。
「まあ、簡単には諦めそうもないけどな。 あのおっさん、めっちゃ紳士のふりしてしつこいな。」
と、わざと明るく言って笑う。
「私のために、断ってくださったんですか?」
萌香は顔を上げる。
「ああ。 まあ、黙って見過ごせないしな。 でもな、別にこの話断ったから言うてオケ、つぶれるわけやないし。 もっともっといいスポンサー取る自信もあるし、」
志藤は笑顔で言った。
「ま、ひょっとしてまた追いかけてくるかもしれないけどな。 そんときはおれに相談して。 何とかなるかもしれへんし。 まあ、なんもでけへんかもしれないけど。 あと・・社長にも断る理由言わなかったから。 あっちも聞いてこなかったし。 だから安心しろ、」
「え・・」
萌は意外そうに志藤を見た。
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