第16話 母(1)

「あんたこんなトコでなにしてんの? って言うか! 久しぶりじゃないの~、」


その着物姿のバーのママらしき女性は斯波の腕を取って嬉しそうにそう言った。


「・・・」


斯波は気まずそうに彼女から目を逸らし、黙ったままだった。




「あのう・・」


南がそっと二人に割って入る。


「どちらさま?」


斯波に言うと、



「え・・、あ・・。 オフクロ、」


小さな声でボソっと言った。



「ウソっ!!」


志藤と南は同時に同じ言葉を発してしまった。



どう見ても。


すっごく


若い。


そしてキレイだ。




「どうも~。 清四郎の母です~。 会社の方?」


そのママは営業スマイルで二人に頭を下げた。


「この上の店に・・飲みに来て、」


斯波がいつものようにボソボソと言うと、



「え~? そうなの? なによ、じゃあウチの店に来れば良かったじゃないの~、」


「行けっかよ!」


忌々しそうに斯波は言った。


すると、店の女の子たちが


「ママ~、どなた? も~、年下の彼ですか~?」


とからかった。


「もー、なに言ってるのよ。 息子よ、息子!」


母は自慢げにそう言って笑った。


「え~? 息子~? ウッソ~、」


彼女たちも驚いていた。


「だってあたしが19で生んだんだから~。」


南と志藤は同じようにすごい速さでママの年を計算してしまった。




って


斯波ちゃんは・・33やから。



このママ・・


え?



52!?


ウッソ!


どう見ても・・40代前半くらいしか見えへんし!



南は同じ女性として


かなりのオドロキだった。




「ステキな方ねえ。 清四郎、どなた?」


母は志藤をチラっと見た。


「おれの上司。 んで、こっちが専務夫人。」


ぶっきらぼうに二人を紹介した。


「え~? そうなの? もー、いっつも清四郎がお世話になっております、」


母は懐から名刺を二人に手渡した。


「店の名刺渡してどうすんだっつの、」


斯波はため息をついた。



『Club Blue Ocean 松橋佐妃子』




思いっきり営業用名刺だった。


「ねえ、せっかくだからちょっと寄って行きなさいよ。 サービスするから、」


斯波は母に腕を引っ張られたが、


「もう帰る。 じゃあな。」


斯波は冷たくそう言って、くるっと背を向けた。


「ちょっと、斯波ちゃんってば、」


南と志藤は母に挨拶もそこそこに彼を追いかける。



3人はタクシーに乗り込んだ。


「びっくりしたあ。 すっごい若くてキレイなお母さんやなあ、」


南が素直な感想を言うと、


「もう52だよ。 若作りしてるだけだ、」


斯波はつまらなさそうに言った。


「そっか。 それでここ来た時・・入りづらそうやったんか、」


志藤は助手席から後ろを振り返って言った。


「お母さんとは・・会ってたんだ、」


南は彼が幼い頃に両親が離婚してお母さんが出て行ったことは聞いていた。



「10年くらい前から・・たまに。 もうおれもオフクロを頼って生きていこうとは思ってないし、元々水商売上がりだから、こういう仕事しかできなくて。 男に騙されてばっかで。 金取られるだけ取られて逃げられたり。 どうしようもないから、」


斯波はため息をついた。


志藤はは彼の父親とあの母親の接点が見つからず、ちょっと不思議に思ってしまった。

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