うちの七不思議

 たまにその七不思議の謎について、飯のときに聞いてみることがある。

 親父は我が家きっての無口人間で、必要がなければ某大冒険のミストなバーンのように何カ月でもしゃべらないため、必然的に聞くのはお袋になる。


 お袋は、濃さも大根もうっすいみそ汁をすすりながら丸っこい顔ではにかむ。


「なんとなくね、なんとかなっちゃうものなのよ」


 なんだそのふわっとした、なんの中身もない回答は。薄いのは汁ものだけでいいわ。


「金、片っぱしから消えてくのに、なんとかもどうもねえだろ」


 少し当てつけるように親父のほうをちらと見やったが、そしらぬ顔ってやつでぱりぽりたくあんを噛んでる。


 どうもこの親父はつかみどころがない。なさすぎる。

 ろくにしゃべんねえし感情の起伏もとぼしいし、なにを考えてるかさっぱり読めない。お袋もにこにこのほほんとしてて読みにくいとこがあるけど、親父は輪をかけてだ。似た者夫婦か。


「ヒキニートはそんな心配するよりハロワ行け」

「おまえに言われたくねえわっ」


 口の悪い妹が、俺のほうを見向きもせずにふてぶてしい態度で言う。同じ引きこもりのくせに。てか一家そろってだわ。おめでてえな。


「あたしは同人で少しは稼いでる」

「どーせ、同人に変わるんだろーが、ホモ同人に。等価交換かよ」

「ホモ言うな。BLだ」


 飯の量より多いんじゃねえのかってぐらい炭酸飲料をがぶがぶ飲みつつ異を唱える。おれよりもからになったペットボトルのほうが価値があるといわんばかりの口調だ。

 デブスは手もとの容器を片手でつぶす。クラッシャブルじゃない普通のタイプを。巨体に似あう怪力よ。保谷、最重量か。


「まあまあ。ふたりともオタク文化の血すじをしっかり引いているってことで」


 お袋がとりなすように笑う。オタの血を引いてるからどうだってんだ。どうも天然で、よく内容のないことをにこにこしながらさらっと言う。毎日がエブリデイ。

 結局、聞くたびに適当にはぐらかされ、よくわからないままだ。


  ……ゆ…………し……

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