妖精《エルフ》というよりは幼精《えるふ》 (四十歳)
まずい、険悪な空気になる、と俺はあわてた。
が、当のソアラは意外とけろっとした様子で「お酒も腹八分目にしとかないと」と屈託なく笑う。そこには、悪意も他意もまったくない、ただ単に超マイペースな純真娘、
今の言動を、誤解を招かずに伝えられるのは地味にすごいと思った。幼いふるまいを前面に出し、奔放に見えて、その実、そうとうなさじ加減を知ってるというか。四十歳という年齢はだてじゃあないっぽい。ヒロインキャラの歳としてはキツすぎる字づらだが。
どうでもいいけど、テーブル上に林立する空のグラスは腹八分目の量じゃないだろ。八十分目ぐらいあるぞ。
デネブは調子を狂わされたように「あ、あたしもジョロキア的なやつでだいぶ汗かいたし、夜風に当たろうかな」とプ◯キュア的な衣装の胸もとをぱたぱたさせて続いた。
「あのー、俺、まだ食ってんだけど……」
届いたばかりのエピキュアチーズの匂いに鼻が曲がりつつふたりを見上げる。
「アルくん、置いてくよー」「ひとりで帰って盗賊とかに襲われてもしりませんよ」と、第一と第二の両使徒はつれない態度だ。
いや俺、パーティーのリーダー……。魔王倒して世界を救う勇者なんすけど……。
ソアラは「ほんとに置いてっちゃうよー? バイバーイ」と、ちっちゃい子あつかいだ。また言いかたが、うちのお袋とか幼稚園のときの先生みたいでよけいムカつく。
むだに量があるエピキュアチーズを、貧乏性から残すのがもったいなくて口いっぱいに頬ばり、その強烈な臭気に悶絶する。これもう勇者じゃなくてバラエティー番組の芸人だろ。
世界一臭いチーズのにおいと、このみっともないにもほどがある絵づらと、自身の度しがたい悲惨な立ち位置に涙目となってふたりの従者を追う俺が、全世界を救う(はずの)勇者であると誰ひとり知ることなどなく、酒場の荒くれどもは酒を交わし続けるのであった。
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