徐々にリオに近づいている

 飲み屋街にさしかかると、ほうぼうの店先でランプの光が煌々と灯るさまが見えはじめる。

 血を思わせる赤い火が幻影のようにゆらいで、空腹の客を誘っていた。


「徐々にリオに近づいてる」


 後ろのデネブがぽつりと言った。

 なんだそりゃ、と俺が首だけ振り返ると、魔道士の使徒は歩きながら天を仰いだ。

 つられて見上げた夜空は、この前、道に迷ったときと同じく星で満たされていた。


「【リオ】は魔王の居城にほど近い街です。この【ジェミナイ】の先に【キャンサー】という都市があり、その次に位置します。一帯を治める王、リオの城下街です」


 そこがデネブの、アンティクトンこっちのせかいにいることに気がついた場所らしい。


「魔王に近い街って周りのモンスターとかヤベえんじゃねえか?」


 RPGの定石からすればとんでもなく強いはず。デネブはうなずき「周辺にはレベル四十から五十ぐらいの強力な敵がいましたね」とさらりと答える。四十、五十て。俺なんて犬相手でも死にかけたのに。

 おまえもしかしてめちゃくちゃ強いの、とビビる俺に、まさか、とデネブは苦笑いした。


「街は、王に仕える【クルセイダー】という非常に強い聖騎士たちの手によって強固に守られていました。私はしばらくの間、リオの街で平穏に暮らしていました」


 またデネブはまたたく星くずを見やる。そのリオとかいう街を臨むような遠い目で。


「けれど、状況が変わり、リオを離れざるをえなくなったんです」

「状況が変わった? なにかあったのか?」


 それは、とデネブが言いかけたところで、数歩先のソアラが「着いたよ。このお店」と声を弾ませた。

 開け放たれた入口から明かりとスパイスの香りが道ばたへと漏れている。

 入りましょう、とデネブは無表情で店内に入った。

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