異世界に コンプライアン スとかなし (東京都・HSさん/20歳・無職)
昼すぎ。俺は、教えてもらった街外れの小さな家を、デネブとともに訪ねた。その小さな住まいには、同じく小さなおばあさんがひとりで暮らしていた。
配達クエストを受けた者であることを名乗って、荷物を届けられなかったばかりか空腹に耐えかね食べてしまったことを話し平謝りした。あわせて、捜索クエストで命拾いしたことへの感謝も。
おばあさんは、まるで孫と話すように、無事に帰ってきてなにより、おいしかったかい、とにっこり笑った。
「すっげえうまかったです」
俺はまたぼろっぼろに泣いた。こんないいおばあさんのパイを嫌うなんて、ひどい孫娘もあったものだ。いや俺の勝手な想像だけれども。
おばあさんは、亡くなったおじいさんの形見だと言って、ひと振りの剣を家の奥から取り出してきた。
刃の白っぽい、年代物の剣のようだ。旅の安全のためにもらってほしい、と申し出を受けて、俺は、とんでもない、と辞退した。迷惑ばかりかけたうえ、配達と俺の捜索の依頼料もまだ手持ち不足で返せてないのに。受け取れるわけがない。
「街ではそういうのは言いっこなし。聞いてるよ、田舎を飛び出してきてなにかとものいりなんでしょう?」
「おばあさん……」
優しい声と笑顔に、また目もとがうるみかける。手放しの親切。なんてあったかいんだろう。
それはそれとして、俺の家、都内だから。あと、酒場の個人情報のとりあつかい……。
結局、ぜひにと押しきられて持たされた。まるっきり、昔死んだうちのばあちゃんだ。そばで見ていたデネブもくすくす笑っていた。
【魔よけの剣/攻撃力:八/強力なモンスターを寄せつけない】
運のパラメーターが一の俺には不可欠の特殊効果だ(まあ、ほかも全部一だが)。俺はありがたくちょうだいすることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます