しかしまわりこまれてしまった! コマンド? →にげる じょおおお…… アルタイルはもらしている!

 逃げても逃げても巨大スライムは地面を揺るがせ追いかけてくる。あんなのにつぶされたら一発で圧死だ。木もまばらにしか生えてない草原じゃ隠れる場所もない。


 前方の道が二手にわかれていた。立て札が立っている。


【←トーラス】【トラース→】


 なんだこのあからさまなトラップは。


 どっちだ? やってきた街はエリース。だったら「トラース」のほうだろ。

 背後に迫るスライムに足を止めることもできず、俺は直感を頼りに右側へ走った。


『さて、先ほども言ったとおり、おまえはゆく先々で【勇者の使徒】と出会うであろう』


 大平原のどまんなかを疾走する俺に、神がなにごともないかのように話を再開する。


「おい、戦闘中に普通にイベント進行すんなっ。この状況でおかしいだろっ」

『戦闘というのはモンスターからひたすら逃げまどうことを指すのか?』

「うるっせえよっ。こんな化け物、あの純白パンツのお姉さんだって勝てねーよ!」

『なんと煩悩の多いことか。嘆かわしい』

「ほっとけ! てか、なにもない原っぱで神の啓示ってのがそもそもおかしいよなっ? ほこらとか神殿とか城とか山頂とか大木の前とか、それっぽいところで発生するもんだろ、こういうの。なんでこんなただの草原なんだよっ」

『おまえはそういうところまで行けるのか?』ぐうの音も出なかった。


 スライムはしぶとくどっかんどっかん跳ねているが、少し距離がひらいてきた。


『おまえは勇者の使徒を仲間とし、ともに強くなり、魔王を討つのだ』

「今日日、しこしこレベル上げなんて流行んねえんだよ。今どきの異世界転生ものの主流は、最強チート無双俺TUEEEE系だろっ。それもそろそろいい加減、旬を過ぎたってか? まったりスローライフ系あたりがこれからのトレンドってか?」

『知るか、そんなわけのわからんこと』


 またわかれ道があった。今度は立て札もない。俺は適当に直感で左を選んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る