ゴブる、ゴブれば、ゴブるとき、ゴブろう

 俺は腰の道具袋にすばやく手を突っ込み、ピンポン玉より一回り大きい灰色の玉を取り出した。至近距離まで追いついた奴ら目がけて投げつけ、力いっぱい目をつぶる。


 頭の上で、ぽんっ、と気の抜けるような軽い音が弾けた。頼りない響きに俺は、あ、これもう終わったわ、死んだ、と観念した。


 が、次の瞬間、しょぼい音とは裏腹の、凄まじい明るさ、赤ともオレンジ色ともつかない鮮烈な色でまぶたの裏が満たされ、焼かれた。目を閉じているのに、まるで太陽を直視するかのようなまぶしさだ。

 経験したことのない現象はゴブリンたちにもてきめんのようで、ギェアアーッ、という身の毛のよだつ叫び声があがった。

 網膜を切り裂かんばかりの閃光と魔物の声に恐怖し、俺はカブトムシの幼虫のように体を丸めた。


 強烈な光は二、三秒で収まった。

 俺はゆっくりと目を開いた。


 まるで、明るい屋外から屋内に入ったときのように、周囲が異様に暗い。急に日が落ちた錯覚にとらわれる。


 【閃光の玉/投げると激しく光り視界を奪う。けして直視してはならない】


 目をつぶっていたのにこの薄暗さ。まともに見ていたら失明したかもしれない。異世界のアイテム、ヤバすぎだろ。


 だんだん目が慣れてくると、木の輪郭や地面の凹凸、ゴブリンたちの姿が見えるようになった。

 連中は全員、目を覆って、ギギギ、とうなっていた。ある者は立ちすくみ、ある者は座り込み、また仰向けで足をばたつかせた。


 よし、チャンス。盲目状態ならこっちのもんだ。全員倒してやる。レベル八×四匹、おいしすぎだろ。災い転じて、ってやつかあ?

 ふふふ、と一歩踏み出してとどまる。


 ――どうやって倒すんだ?


 俺の持っていた武器はあの紙っぺらの聖剣もどき。今は完全に素手。レベル一の俺がレベル八の敵を殴ってまともにダメージ与えられるのか? また〇・一とかじゃねーの?

 相手の武器を奪うか? いや、でも近づいたときにもしつかまれたりしたら……。


 そうこうしているうちにゴブリンのもだえる様子が治まりはじめていた。一匹がよろよろと起き上がろうとしている。まずい、視力が戻りだしていやがる。完全回復する前に逃げないと。


 俺は再び駆けだした。後ろからグギーッとかギアーッとの怒声が聞こえて、ひいいいっ、と青ざめたが、追いかけてくる気配はなかった。

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