百花女子高校かるた部 ~近江神宮への道~

和希

第一章 入部

第一章 入部①


 先輩が畳を叩く小気味よい音が部室に響く。


 と同時に、畳に並んだかるたの札がなぎ払われ、一枚が宙を舞った。


 札はまっすぐ一直線に鋭く飛ぶと、見学していた菜乃花なのかの目の前を疾風のごとく通り抜けた。それから部室の壁に衝突すると、畳の上にぽとりと落ちた。


 菜乃花は身体を硬直させ、思わず息をのんだ。


 こんな世界があったなんて……。


 私がイメージしていた『かるた』とは全然ちがう。


 かるたって、お正月によく耳にする『春の海』の音楽が似合うような、優雅でのどかなものだと思っていた。


 けれども、目の前で繰り広げられたのは、そんなゆったりとしたものではなくて。


 札を読み上げる音声の始めの一文字が聞こえたと同時に、電光石火の一撃! 


 スパンッ! と畳を叩く乾いた音がしたかと思うと、すでに払われた札が宙を舞っていた。


「ごめんなさいね。びっくりさせてしまって」


 札を払った先輩は申し訳なさそうにそう言うと立ち上がり、飛んだ札を取りに来た。


 綺麗な先輩だった。


 長い亜麻色の髪、アーモンド型の大きな瞳、整った鼻梁。申し訳なさそうな言葉をもらす口元には優しい微笑を浮かべている。


 札を取った達成感からか、はたまた初心者の私の驚きように満足したのか。とにかく目を引くような爽やかな笑みだった。


 菜乃花は思い出したように息を吐き出し、目をぱちくりした。


 そして興奮気味に思わず感嘆の声をもらした。


「すごいっ! すごいね椎名しいなさん!」


 隣で椎名蘭子らんこがおかしそうにくすっと笑う。


「ねっ、言ったでしょう? 競技かるたはスポーツみたいだって」


「うん、びっくりだよっ!」


 菜乃花はかるたなのにTシャツにジャージで登場した先輩方の姿にまず目を疑った。


 それから、競技かるたの様子を実際に目の当たりにしてますます驚いた。


 菜乃花が抱くかるたのイメージからはかけ離れた、まるで格闘技みたいな激しい戦いが、まさに今目の前で繰り広げられている。


 菜乃花の話し声が響いてしまうと、腰を下ろして構え直した先輩が可愛らしくウインクして忠告した。


「驚いてくれてありがとう。でも、札が読まれるときはお静かにね」


「す、すみません!」


 菜乃花は慌てて口元を手で押さえ、次の札が読まれるのを静かに待つ。


 胸の奥でドキドキと高鳴る鼓動を、菜乃花は確かに感じていた。


 相沢あいざわ菜乃花、十五歳。


 これが初めての競技かるたとの出会いだった。

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