第49話「わたあめと子供」

 幾つもの屋台を越えてわたあめのある屋台を目指す。思えば子供の時親に連れられてきた時は必ずわたあめを買っていたので端ということは覚えていた。しかしそれは小学2年生の時までのことでそれからは余り買わなくなったのでこの10年以上の間に変わっているかもしれない。

 

懸念を抱いていたが未だにあの頃と変わらず端にあるというのは感無量だ。


 思えばこのポジションは花火へ向かおうとする人たちには必ず目に入るであろう位置とベストポジションだ。そこを長年キープしているということはそれだけ人気なのかもしれない。現に大人になったオレ達もこれから買おうとしているのだから大人から子供まで人気があるのだろう。


 そんなことを思っていると可愛らしく平仮名で「わたあめ」と書かれているわたあめの屋台に着いた。やはり人気なようで数人の列が形成されている。


「じゃあ買ってくるからここで待ってて」


「いや、オレが買ってくるから櫻井さんこそここで待ってて」


「良いよ良いよ、私が買いたいんだから」


 櫻井さんが鼻歌交じりに列に近付いて並ぶ。彼女は金魚すくい以降このように上機嫌だった。


 わたあめの屋台は店主さんの技前が見えるようにするためか透明になっている。


 こうやってわたあめを作る過程をみるのも楽しみの1つだったなあ。


 としみじみと思った。そう、個人的にはわたあめを購入する楽しみは3つ存在し1つは今説明したわたあめを作るのが間近で見れることで2つ目はわたあめそのもの。そして3つ目は……


 ちらり、と左右にぶら下がっている今放映されている最新のアニメや特撮のキャラがプリントされた袋に目をやってフッと笑う。


 3つ目の楽しみはこのプリントされた袋だ。昔はこれが1番の楽しみで何個か買っていたのだけれど、今でも見ているとはいえこういうのを欲しがるという年ではないのだ。そういえば、櫻井さんは何を貰うつもりなのだろうか。無難に人気アニメの袋かなあ。


 疑問に思っていると丁度櫻井さんの番が来たようだった。わたあめを1つ注文しておじさんが見事な技でわたあめを作り上げる。そして櫻井さんは袋をどれにするのか尋ねられると迷わずに特撮ヒーローがプリントされた袋を指差した。


「お待たせ~」


 思わず固まるオレの元へ袋を持った彼女が近づいてくる、そしておじさんとオレの目が合うと腑に落ちたように彼はニヤッと笑った。


 まずい、この状況はまずい! これじゃあオレが特撮の袋が欲しいのだけど恥ずかしいから櫻井さんに頼んだみたいな流れじゃないか! 彼女の心遣いは嬉しいけどこれはまずい!


 オレは咄嗟に脳細胞をトップギアにして言い訳を考える。すると1つの悪魔的発想が閃いたのですぐさま口にした。


「ありがとう、これで修美も喜ぶよ」


 そう、こうなったらオレ達の間に子供がいることにすればいいのだ! それでその子供が欲しがったのを買う母親とそれを待つ父親、何も状況的におかしいことはない!


「もう、何言ってるの修三君! 」


 しかし、それを聞いた櫻井さんが真っ赤に染まった頬を膨らませる。


「ごめんごめん、ちょっと考え事していたからびっくりしちゃって……それより大変だ! もう花火大会始まるよ! ! 」


 流石に子供はマズかったかと彼女に詫びながらも本音は誤魔化しつつオレは彼女を手を引いて花火が見える場所へと向かった。


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