第40話「夏の予定は」
7月中旬、夢の国へはオレが送って行こうと親の車を借りて事前に練習もして運転の勘を取り戻していたのもあって櫻井さんの運転手になるための研修は順調だった。「これも仕事だ」と言いながらも丁寧に色々と教えてくれる斎藤さんには頭が上がらない。
休日、暑くない早朝を見計らって軽く運動も兼ねて田んぼ道を走っていた。
見渡す限り田んぼ! 田んぼ! 田んぼ! そしてその田んぼは稲で一面緑色に染まっている。緑は目に良いと聞くのでこれはかなり目に良い光景なのだろう。
走りながらこれからのことを考える。この夏のことだ。 夏といえば夏休みもありそのイベントは盛り沢山! 定番の祭りや花火は勿論のこと海での海水浴もできる! こんな素晴らしいイベントを逃すわけにはいかない!
特に海水浴だ! 海水浴と言えば水着! そう櫻井さんの水着姿を拝むことが出来るのだ! ! 何としてでも海水浴の約束はしなくては! ! !
しかし、水着となると櫻井さんが恥ずかしがって首を縦に振らない可能性もある。こういうのは一度断られたらアウトな気がするので誘導もしっかりしなくては!
海の前段階と言えば川……川と言えば山! ハイキングは……最近の夏は猛暑日が多いので難しそうだ。
ならシンプルに川だ! 川で懐かしのザリガニ採り! といきたいところだけれど櫻井さんはザリガニには興味なさそうだからなあ。
そういえば、漫画でカップルで貸しボートに乗るシーンを見たことがあったな。貸しボートとなれば雰囲気も良いしバッチリだろう! しかし、この田舎に貸しボートはない。
…………そうだ!
あることを閃いた。余りに素晴らしい閃きに地面を蹴るスピードを速め加速する。そのまま力尽きるまでオレはひたすら加速し全速力で田んぼ道を駆け抜けていった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ペットボトルいかだを作ろう! 」
いつものようにスーパーで櫻井さんと合流したオレは冷やし中華の材料を籠に入れ終えて飲み物コーナーに回った時にさも今思いついたように提案する。メッセージで送るのも良いけれどこういうのは生の反応を見たほうが良いとの判断だ。
さあ、櫻井さん! ペットボトルいかだとなると膝下までは濡れることが想定されるのでサンダル半ズボンと普段より露出することは避けられない! 露出に対してどんな反応をみせる櫻井さん!
オレは顎に手を当てて何やら考えている様子の彼女を固唾を飲んでみつめる。すると彼女が言った。
「面白いとは思うけど、ペットボトルそんなに用意できるかな? 」
そうでしたああああああああああああああああああああああ! ! ! 最大の問題であろうそこを考えていませんでしたあああああああああああああああああ! ! !
心でそう叫びながらもスーパーで彼女の前でそんなことを叫ぶと大変なことになると予想されたのでそんな動揺している姿も見せず冷静に彼女の目を見て告げる。
「その点なら心配ないよ、今から買うから! 」
そう言い終えるや否やオレは素早く買い物籠に2Lペットボトルを次々と入れた。たちまち籠がペットボトルで埋め尽くされる。
残念ながら今回はここまでか、次は次回にしよう!
そう考えて籠を持ち上げようとしたのだが…………あまりに重くて持ち上がらなかった。
「わ、私も家にあるやつとか持ってくるから! それに最近暑いから沢山買っておきたいなあ」
オレの様子を黙ってみていた彼女がそう言いながらオレの籠からペットボトルを取って自分の籠に入れる。
「ごめんね、気を遣わせて」
「ううん、私もペットボトルいかだやってみたいから」
そう言って籠を持ち上げようとするも持ち上げられないようで恥ずかしそうに何本か戻そうとする。オレはそれを遮った。
「大丈夫だよ、片手じゃ無理だけど多分両手なら持っていけるから、車まで持っていくよ」
そう言って右手に彼女の籠を持ち上げ左手で自分の籠を持ち上げる。若干キツいけどこれなら何とかなりそうだ!
「ありがとう修三君! 」
彼女が嬉しそうに言う。オレはそのまま彼女と会計を済ませ袋に移し駐車場の彼女の車まで持って行った。
確かに櫻井さんの言うように猛暑の夏、飲み物は親が水筒に入れて持っていく分を考えると今回は買いすぎとはいえ毎日2Lペットボトルを1本買ってもおかしくはないから2人乗りのいかだができるまで位の数なら何とか集まりそうだ。オレは彼女の車を見送りながら期待に胸を膨らませた。
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