3-2 ジャミン
「残念ながら、ベイルートキングダムの戦力は整っている。新宿やマイアミのようにはいかない」
指揮官の少年が、画面上の戦力図を棒で差す。新宿とマイアミの戦力図も比較で並べられ、あまりの規模の違いに、俺も絶句している。
「中東の志のあるホシビトが集結してしまった。聖地を守る騎士団を名乗り、その長として王を担ぎ出した。この少年だ」
画面に写真がでかでかと表示される。細面のイケメンだ。十四歳くらいのはずだが、精悍で、十六、七くらいに見える。
「カジル・ジャミン。中東を拠点とするジャミン・グループの出で、現代表のケイヒル・ジャミンの長男だ。いや、だったと言うべきか」
画面が切り替わる。ジャミン・グループ内の勢力図のようだ。
「カジルはホシビトとしての使命に目覚めた。ケイヒルの要望を一部受け入れてはいるが、基本的に神を守護するために力を使っている。グループ内でもカジルを支持する者は多い。神は、絶対だ」
画面が再び戦力図に切り替わり、ベイルートからエルサレムまでの異界浸食度が表示される。
「奴の目的は聖地の恒久的な保存だ。何としても異界の浸食を防ごうとしている」
話を聞いたら、何人かがざわついた。カジルの目的に感化されたように見える。
「だが、カジルのやり方は手荒だ。ベイルートの柱を破壊しようと、過剰な兵器を使用した。結果は、失敗。柱は、いかなる兵器でも破壊出来ない。これはマイアミですでに実証済みだった」
爆破の映像が流れる。もくもくと膨れる黒煙の中で、柱の影が異様な存在感を示し、今言われた通り、傷一つついていなかった。
「奴は、異界の広がりを防ぐために神話にも興味を示し、いわくつきの神器まで持ち出したらしい。結果は、
写真で、ニンゲンの神話の宝が、次々と映って、切り替わっていく。不老を約束する聖剣の
「奴はこちらと徹底的にやるつもりだ。そこで、」
ピピピーン、ピピピピーン、と不躾な着信音が鳴った。
「あ、すみません」
俺の、携帯電話だった。相手を見る……知らない番号だ。でも、出ちゃう。
「あ、もしもし」
俺は退室しようと、席を立った。指揮官の少年が咳払いして、話を続けようとする。
「あ、ジャミンさん? どうして、この番号を?」
俺が、話した途端に、全員がこちらを向いた。
「えー、はい……はい。確かに、それは今持っています。……はい。で、試したいんですね? ちょっと待って下さい」
俺は、携帯電話を持つ手を下げて、指揮官の少年に言った。
「今ケイヒル・ジャミン氏から電話を頂いて、ベイルートキングダム王のカジル・ジャミンが、話をしたいと」
これを聞いて、室内のほとんどがざわついた。
「静かに!
指揮官の少年が注意し、俺を手招きする。小走りで壇上に上がり、携帯電話を指揮官の少年に渡した。
「代わりました。私は、作戦司令のヘンドリック・ウォーカー大佐であります。失礼ですが、ケイヒル・ジャミンご本人で? ……今イリノイの真下?」
指揮官、ウォーカー大佐が指を鳴らす。
画面が切り替わって、地上が映された。映像が拡大される。車両が五台。トラックとSUV。そして、銃を持った男たちと電話を持っている初老の男性が一人。
その人物の顔が拡大表示される。すぐに顔認証システムが機能する。
目、耳、口、輪郭、ケイヒル・ジャミンと一致する確率九十六パーセントと表示された。
「確認しました。それで、その刀ですか? それで戦いを回避出来るかも知れないと。それをオガミが持っているという事ですね? ……はい。こちらから伺います。では」
ウォーカー大佐が、通話を切った。携帯電話を俺に返す。
「今から私と地上に下りてもらう。交戦前の交渉になるが、この件は公式の記録には記されない。ここにいる全員にも秘密は守ってもらうぞ。いいな?」
全員が、サー、イエス、サー、と返答した。
「オガミ、その刀は持っているな?」
「はい、ウォーカー大佐」
「では、一緒に来たまえ」
ウォーカー大佐が壇上から降りる。俺も後に続き、全員に見守られ、退室した。護衛に四人がつき、前後を守られている。
「話に聞いた
ウォーカー大佐が自問するように呟く。
「戦闘が回避出来るとは思えません。不満を抱えた戦士がやる事は一つですから」
俺が冷静に話をすると、ウォーカー大佐がこちらを向いた。
「だがな、老いた父親の願いを聞かない程、我々も人でなしではない。ジャミン・グループには恩を売っておきたいしな」
この答え方に、ウォーカー大佐のお人柄が窺えた。なるほど、指揮官を任せられる器だった。
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