2-5 二度目の指名

「ケイヒル・ジャミン、西暦二千年一月一日生まれ。

 裕福な家庭の長男として、サウジアラビアで生を受け、両親と共に渡米。ハイスクール在学中に始めたSNS事業で収益を上げ、大学を卒業すると同時に中東に舞い戻った。

 以降サウジを拠点に、飲料水事業を開始する。日本の水資源にいち早く注目し、所有する水源地が多数。

 また、裏で武器商人としても暗躍しているが、これは情勢をコントロールする事が目的で、事実奴は過剰な供給を避けている」


 ジョンソンがスクリーンに映された映像を交えて説明する。


「そんな頭の良い奴が、何で核なんか」


 ブラムが口を挿むと、ジョンソンが、ふむ、と映像を切り替える。

 そこに無残に横たわるニンゲンの死体が映された。ブラムの目が険しくなる。


「ボーンがもたらした災厄を見て、奴は変わった。武器を流す量に歯止めが利かなくなった。そして、更なる災いを呼んだ」


 ジョンソンはややためらいを見せ、そっと映像を切り替えた。


「人間同士の争い。カネ、欲、権力。武器はそれを最も簡便に叶える魔法の杖だ。奴は、その事を失念していたんだ」


「じゃあ、抑止力のために核を?」

おいた・・・をすれば撃つと脅すつもりだろう」


「自分でやった事の始末か……けど、人の道具を拝借ってのは頂けないな」

「そうでもしなければ……だが、正義は何時も正しいとは限らない。俺たちも散々味わってきたさ」


「ベトナム、アフガニスタン、イラク、イラン、シリア、酷かったね……」


 ブラムは冷めた顔で、遠くを見るような目をしている。


「イエスが言った。罪の無い者はこの姦淫の女に石を投げよ」


「答えは、誰も出来なかった、だ」

「そうだ。誰も罰を与える事を許されない。やれば非難されるのは当然だ。奴個人にその過ちを清算する能力は無い。人として止めてやるのは当然だろう?」


「だろうね。真面目な奴なら、殴ってでも止めてやる価値はある、か」


 ブラムは納得した様子で、チョコレートキャンディーバーをかじる。


「で、どうするね?」


 ブラムが案を求めると、ジョンソンが映像を切り替えた。


「奴に代替案を提示した。肩代わり・・・・だ」

「つまり、また同じ事を繰り返す?」


「アメリカ軍を送り込み、可及的速やかに事態の収束を図る」


「ははははははっ」


 ブラムが笑い出した。


「分かっている。罪を負う事になる。だが、そういう役割だ。力には責任が伴う。我々にはそれが出来る。だから、やるしかない」


 ジョンソンの目が語っている。彼は、本気だ。過去のオフィサーが営々と積み上げ、築いてきた矜持きょうじ、彼もまた同じものを持っているのだろう。決して折れない。決して曲げない。


「奴は応じるのか?」


 俺が聞くと、ジョンソンがこちらを指差した。


「?」


 何だ?


「一対一をお望みだ。君と話をして決める。奴は、そう言ってきた」


 オー、そりゃ大役だ。なら、こう答えるしかないな。


「引き受けよう。ケイヒル・ジャミンという男を見極めさせてもらう」

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