4-1 新しい翼

 ホシビトの法案についてメディアで大々的に報じられた後、俺とブラムはあっさりと放免された。

 ブラムはそれとなく勘づいている風だったが、何となく話題にするのを避けている様子で、俺もあえてそこには触れなかった。


 それはともかく、これで晴れて自由の身。二週間近く戻れなかった愛しのカシワ基地にただ今ご帰還となった。


「あ、おかえりなさい」


 警備員の出崎でざきさんが笑顔で出迎えてくれる。男盛りといった壮年だが、笑うと少年のようなあどけなさがある。


「いや、参りました。新東京で身柄を拘束されちゃって」


 世間話を少々。現場の人たちとの触れ合いは大事だ。俺たちはニンゲンじゃないし、余計にな。


「敵兵との立ち回りをテレビで観ました。あれは仕方ないでしょう」

「ホシビト関連法案の提出に一役買ったつもりはないんですが……」


「時の運、というものがあります。我々ニンゲンも次のステップに進むべきだと個人的に思います」

「私も同じです。争い合っている時ではないと思います。異界と向き合う事を重視しないと」


「そうです。現に東京近辺でボーンが出没したという情報もある。ホシビトを優先的に警察組織に起用して、ボーン対策に乗り出して貰わないと」

「新組織ですか……あり得る話ですね」


 法案は、そのための足掛かりか……。


「その前にキングダムを解体しないと。あれは一時的な受け皿に過ぎない。決して、国などではない」


 出崎さんの慧眼けいがんだった。俺は、俺の役割を演じなければ――。この日本の、第二の夜明けのために。




「長かったな」


 烏丸からすま司令にお小言を貰った。執務室に入ったら、いきなりこれだ。


「有意義な休暇だったと思いたいですが」


 水瀬みなせ監察官とじっくり話せたのは特に。


「何か成果があったと?」

「上には上の都合があると理解させられました」


「結構。次はこちらの都合に合わせて貰おう。仕事だ、ソルジャー」


 烏丸司令がファイルを差し出す。タグに、試作兵器テストについて、と書かれているが、開いてみれば、新型のフォーミュラについての詳細が記されていた。


「機体が電流で変形する……電子でスターダストを繋いで」

「そうだ。ライトギアは光で構成されているが、物質化した状態をスターダストと言うな。これはよりライトギアに近いフォーミュラと言える」


「人工的なライトギア?」

「そのひな型だ。無理を言って、こちらに回して貰った」


「……また、ですか?」


 L3エルスリーといい、よくもまあ、こうぽんぽんと。


「上には上の都合があると言ったな? 私にとっても同じ、という事だ」

「ああ」


 つまり、八火殻やびからの刀を持たせた俺の役割に、烏丸司令も付き合わされているという事だ。


「試験は明日〇七〇〇まるななまるまるから始まる。今日はゆっくり休め。キングダムとの再戦は近いぞ」

「はっ!」


 俺は背筋を正して、敬礼した。

 これもお役目。やりがいは求められないが、やる気だけは持たねば。


 そういう『仕事』も世の中には、ある。

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