3-9 ブラスト

 すでに街は戦場と化していた。

 建物は焼け、人が大勢倒れている。助けに入る人も翼のあるライトギア共に蹂躙じゅうりんされ、一面混乱で満たされていた。


「まるで神話の一節だな」


 ブラムがおどけて、俺に笑い掛ける。


「誰も神の新作等求めていない。既に約束は結ばれている」


 俺はゆっくり前に歩き出した。


「では、俺たちは何故ここに?」


 そっと半分後ろを向いて、問いに答えた。


「銃に聞け」


 すらりと刀を抜いて、円舞する。すれ違うライトギアの主翼がすっぱりと切れた。


「銃に、ね。そんじゃ、まあっ!」


 すちゃっ、と袖口からハンドガンが飛び出す。

 銃口が一瞬真っ赤なルージュをまとい、死神が天使に愛を囁き掛ける。


 ハートに直撃。


 ブラムがステップを刻みながら前に出る。襲い来るライトギアが次々と死神に求愛され、脆くも崩れ落ちていく。


 俺も負けていられない。納刀し、天上で旋回するライトギアを一度見上げる。目を閉じて、気を集中させた。


 歌を……生命の歌を聞け。


 やがて静寂の後に、一面に割れ響く歌声が聞こえた。助けを求めるニンゲンたちの声だ。


 眉間にしわを寄せた。もし地獄が存在したとして、亡者たちの声が聞こえたならば、恐らくこうなのだろう。


 俺は、そこに剣で詩を刻むだけ。こんな風に。


 身体をよじり、かわした槍の冷たさを感じながら、相手の翼を切った。続いて三連撃、全て翼を切り落とす。剣筋に乱れは無い。


 刀を鞘に納める。背後で地面に激突する音が四つ響いた。もう彼等から戦意の歌は聞こえない。


 キリョクを脚に集中させる。


 筋肉が一瞬膨張し、凄まじい脚力で身体を前へと押し出す。目に映らない程の移動だっただろう、不意を突かれた敵ライトギアが抜刀した刃で翼を切り落とされた。


 刀を鞘に納める。


「貴様っ!」


 敵ライトギアの一群が俺に閃光剣を向ける。数は六。一斉に襲い掛かってきた。


 突きが来る。連続して十度。全て見切ってかわす。くるりと間に入り込み、身体を回しながらすぱりと翼を切り落とす。


「……何……だと?」


 理解出来ずに地に落ちる敵兵の姿を、しかし、俺は目に留めない。前に進み続ける。


「英雄尾神おがみだ! 討ち取れば、値千金よ!」


 敵将がこちらを剣で指名する。三十七の兵が一斉に襲い掛かってきた。四方八方からだ。


 歌を……生命の歌を、聞く。


 歌声の通りに敵が来る。


 かわすのは容易。打つのも、また容易。三十七からなる群れが次々と翼を切り落とされていく。その間を俺はまっすぐに進んでいく――剣で詩を刻みながら。


「うぉぉぉぉ!」


 敵将がおののき、一歩引いた。


 奴は、逃げる。一瞬前に感じ取れた。


 腰を落とし、気を集中させる。柄に右手を添えて、一切の無駄もなく、キリョクを刀身に伝える。


 星の輝きの力が、鯉口から眩い程に漏れ出ている。


 抜き放つ、必殺の『烈風』を!


 空を裂く閃光が、マッハ十五を優に超える速度で、敵将を真っ二つに切り裂いた。


 ゆっくりと残心して、くるりと手の中で逆手に回す。鞘に静かに納めて、周囲を見渡した。


 倒れた敵がそこかしこにいる。八火殻の刀で切られたショックか、鎧が解除されていた。


「なあ、キセ、何だろ、あれ?」


 ブラムが横から空を指差す。先程烈風を放った方だ。銀色の光が、天に昇っていく。


「……」


 俺は、八火殻の刀に視線を落とした。


「それかね?」


 ブラムも気が付いている。


「殺したって感じじゃない。あれはどちらかと言えば……」


 昇っていく光をもう一度見る。


『また会おう、星戻しの剣士』


 灰羽かいばレイに言われた言葉を思い出す。


 この刀は、恐らくそのための――。


 水瀬みなせ監察官に会いたくなった。いや、次は灰羽レイと相対する事になるだろうか?


 逸る心に彼女の面差しが映っていた。

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