夢のカケラと、その行方。

御子柴 流歌

ゆめか、うつつか

 夢を見ている……のだろうか。


 少なくとも「現実世界」ではないことだけは判る。


 そうなのだ。

 こんなに色もカタチも何も無い世界が、現世だったらたまらない。


 すべてが曖昧で、何も無い。

 自分自身が在るのかさえも曖昧だ。


 これが夢ならば醒めてくれ。

 現実であっても醒めてくれ。

 そう思う他なかった。



「誰かーーーーーー!!」



 絶叫も、響かない。

 壁などがあれば反響するはずなのだが、それが無い。

 壁すら無いように見えるのに、まるで防音壁に吸い込まれたかように、声が溶けていった。


 ああ、これが寝言の正体か。

 などと何処か冷静に俯瞰する自分に少し呆れた。

 意外と余裕があるものだ。


 なるほど、これが主人公補正とでも称されるものなのか。



「……動き回っても大丈夫か、これ」



 意を決して、右足を前に踏み出す。

 一瞬右手が一緒に前に出かかった。

 危ない。

 格好悪い入場行進になるところだ。


 思った以上に硬い。

 というか、しっかりとした床のようなものが広がっているようだった。


 かつり、かつりと高い音がする。

 しかし響いては来ない。

 ふと自分をよく見れば、いつも着慣れた高校の制服に、履き慣れたローファーだった。

 此の期に及んで、ようやく自分が制服を着ているということに気がついたのだ。


 ――やっぱり、主人公補正なんて自分には似合わないのだ。

 余裕なんて、やっぱり無い。


 こうしていても、何も始まらない。


 ひとまず歩けるところまで、その道中で何かを見つけたらそれを目指して歩いてみることにした。


 依然として真っ白な空間だ。

 とくに上下左右、360度見回しても、今の所変化はない。

 そもそも、本当に進んでいるのかも曖昧に思える。

 もしかしたら、ものすごく硬質なベルトコンベアの上をひたすら歩いているだけのような気もしてくる。


 自然と、早歩きになってくる。

 息も少しずつ荒くなってくる。


 それでも、何も代わり映えがない風景――いや、風景と呼べるのかもわからない空間は、無表情のままで見つめてくるようだ。


 もう一度叫んでみよう。


 それでもダメなら、どうしようか。


 走るか、止まるか。


 方向を変えてみるか。

 それも、右か、左か。或いは真後ろか。

 否、真後ろは意味がない。

 本当だろうか。こんな空間に常識なんて通用するだろうか。


 いずれにしても、何か。






「おーーーーーーーーーーーーい!!!!」







『……ーーーーーーい』





 残響音が、した。

 先ほどとは明らかな違い。


 右斜め60度くらいの角度だろうか。

 その方向から自分の声の跳ね返りが聞こえてきた。


 朗報以外の何物でもない。

 完全に音が吸収されていたことから考えれば、とんでもない違いだった。


 方向転換とともに、思わず走り出してしまう。

 硬い床に、響く靴音。

 その残響すら嬉しいのは、やはり少し参っているのかもしれない。

 藁をも掴む気持ちとはこういうものか、と痛感する。

 たとえ当てが無くても、本当はその方向に何もないかもしれなくても、一縷の望みがあるならばそれに縋りたいのだ。


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