第12話『その竜騎士、魔獣を殲滅する』



 魔獣は氷属性と炎属性という、2つの相反する属性を習得した。巨大な羽根を広げ、ワイバーンの如く羽ばたこうとする。だが、自らの身の重さがたたり、少し浮かんだだけで、また屋根へと足をつけてしまう。



 しかし飛行能力を得るのは時間の問題だった。なにせ受けた攻撃属性をそのまま身につける化け物だ。



 攻撃すればするほど、相手は即座に学習し、自らの糧とする。絶望的なまでに厄介な敵であろう。



 ジーニアスは飛行能力を習得される前に、再度攻撃を開始する。ただでさえ、自己修復機能と高度な順応性を持つ怪物だ。さらに厄介な存在になるまえに、なんとしても斃す他ない。




 ジーニアスはハンドキャノンを速射モードに切り替える。先の一撃にすべてを賭けるのではなく、威力と貫通性能を押さえ、連射という数で捻じ伏せようというのだ。





 再び銃身が、カシャカシャとメカニカルに可変する――そして引き金が引かれるのと同時に、まるでサブマシンガンのようにプロトン砲が連射される。




 連射と言っても桁外れの攻撃力だ。同じ素粒子砲であるビーム砲。その電子と比べて陽子は約6000倍と重たい――単純計算で6000の3乗根=約18――つまり、陽子を撃ち出す砲は、電子砲に比べて18倍の威力があるのだ。



 空に舞い上がろうとした魔獣を、プロトン砲の雨が突き刺さる。ボボボ!という奇妙な着弾音と共に、魔獣の体は穴だらけと化す。


 これでもかと風穴と開けられた魔獣。しかし、ここまで穴だらけになっても、魔獣は活動を停止しない。体を2つに分割し、一体は氷の魔獣。もう一体は炎の魔獣として体を組み替える。



 ただでさえ手に負えない相手。あろう事か、その数が増えてしまったのだ。



 しかも体積が元に戻った事により、空を飛ぶ能力を完全に会得してしまう。



 飛び立つことに成功した炎の魔獣。その手始めに、同じ空という戦場に立つグリフォンへと牙を剥く。



 ジーニアスがそれをさせまいと、グリフォンを援護しようとする――が、引き金が引けない。射線がグリフォンと重なり、誤射の危険性があったのだ。高い攻撃力は頼もしい味方ではある。だが時として、その高い攻撃力そのものものが、思わぬデメリットを生む。



 自身の長槍に拱くジーニアス。それを見兼ねたかのように、思わぬ勢力が参戦する。




 ――竜騎兵。




 甲冑を身にまとった騎士が、ドラゴンから飛び降りる。彼は剣をその手に握り、落下中にも関わらず姿勢を崩すことなく、狙いを定める。



 そして、少年の雄叫びと共に魔獣頭部が一刀両断された。しかし彼の狙いは頭部の破壊ではない。その中にあった魔獣の中枢核――コアだ。



 赤きコアが騎士の剣によって砕かれる。それと同時に、魔獣は魔素となって塵と化した。



 その堂々たる戦果はまさしく、一撃必殺。



 ジーニアスと第七防空遠征旅団が束になっても敵わなかった強敵。それを、こうも簡単に葬ってしまったのだ。


 あまりの手際の良さに、その場にいた誰もが息を呑み、『そんな馬鹿な』『いったい誰が?』という視線を投げかけてしまう。



 しかし騎士の快進撃は終わらない。


 残っていた氷を司る魔獣。今まさに屋根から飛び立とうとしていた魔獣を、騎士は、建物ごと両断する。


 四階建ての建物が倒壊していく。近くに並列していた建造物も、巻き添えを喰らう形で次々と地面へと崩れた。


 ジーニアスは咄嗟にルーシーを抱きかかえ、別の建物へ跳び移った。



 建物が崩壊したことで、大量の埃が舞い上がる。それに混じって、魔素の赤い煌めきが輝いている。氷の魔獣も、騎士によって斃されたのだ。



 魔素の混じった埃の中から、その人物は現れる。鎧についた小さな木片を払いつつ、彼はマントを翻す――その鎧とマントには、セイマン帝国の国章が刻印されていた。



 マントに大きく刺繍されていた、セイマン帝国のエンブレム。それを見たルーシーは戸惑いを隠しきれず、彼の強さよりも、なぜ帝国の人間がここに居るのかと、動揺する。



「そんな……どうして! どうしてセイマン帝国の竜騎士がここに?!」




 そして彼女の脳裏に、屋台の亭主と話した会話が過る。




「そうか! アータン漁港に来航していた、セイマン帝国の軍艦! あの船を護衛していた部隊が援軍に――でもこの強さ、なにか……おかしい。あの魔獣は鬼兎の騎士団を凌ぎ、第七防空遠征旅団を越える強さだった。その魔獣をこうも容易く斃すなんて――」




 ルーシーの抱いた一つの疑問――しかしそれは、この場では解決することはできなかった。



 大通りに騎士の愛騎であるドラゴンが飛来する。魔獣を斃した騎士はそれに騎乗すると、新たな魔獣を求めて飛び去ってしまった。



 それを見送ることしかできなかった。ルーシーとジーニアス。そんな二人からほの少し離れた位置に、第七防空遠征旅団のグリフォンがゆっくりと降り立った。



 その女性騎士は屋根の瓦の上を歩き、二人に声をかける。




「無事ですか! 我々は第七防空遠征旅団の者です! この一帯はまだ危険です! 避難場所の教会まで輸送しますので、乗って下さい!」




 女性騎士に随伴していた、もう一体のグリフォンが降り立つ。



 ジーニアスとルーシーは感謝の言葉を述べつつ、それぞれのグリフォンへ騎乗。安全地帯に向けて飛び去っていった。




    

 

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