3-2-3 ストレイ・シープ / 牧羊犬 その2
指定された座標を《掴んだ》途端、強い風が顔面に吹き付けてくる。反射的に瞑ってしまった目をおそるおそる開くと、どうやら今回の届け先はビルの屋上の様だった。
周囲の状況を確認しつつ、左手で掴んでいた
「おー凄いスゴイ。ホントに転移出来るんだ。……じゃ、僕は急ぐから!」
「はぁ、頑張って下さいね。おしごと」
俺の方を見向きもせずに遠ざかってゆく螺湾さんの背中に、心にもない激励を投げかける。
天海は、以前に螺湾さんが言った事を覚えていたらしく、最近は事務仕事を全くさせずに、こうして頻繁に駆り出しているのだそうだ。忙しそうだと思ったが、「言葉を弄する方が性にあっている」と、当の螺湾さんは気持ち悪いほどにイキイキとしていた。
さておき、次の仕事を確認しようとした所で、突然「あっ、そうだ」と螺湾さんが身を反転させた。
「どうかしました?」
「灰崎の奴にさ、言っといてくれない? 『もうすぐだから報酬を用意しとけ』ってさ」
「報酬? それは、どういう――」
「口頭でバレないように頼むよ。記録が残ると、アレだし」
一聴しただけではその意を掴めず、思わず聞き返したが、螺湾さんは詳しい説明もなしに「ヨロしく~」と風の様に去っていってしまった。
報酬……灰崎さんは、何か頼み事でもしていたのだろうか。そう考えながらも、時間が差し迫っている次の送迎場所の座標を《掴む》と、ビルを見ていた俺の視界を鬱蒼と茂る枝葉が覆い尽くした。植生からして、場所は恐らく日本だろう。周囲を見る限り送迎対象は未だ到着していない様だ。
遅れているのだろうか。この後はR-1地区に戻って調査をするつもりなので、多少なら別に支障はない。トラブルがなければいいのだが……と俺は息を吐き出しながら木の幹に背を預けた。
暇になった意識はさっきの考え事に戻る。そこで、ようやく「ああ、あれか」と、ある可能性に至った。
『蕃神信仰と、それにまつわる天海の不可解な言動』
確か灰崎さんは、それに就いて調べてやると息巻いていた記憶がある。上位者と相まみえた衝撃に加え、忙殺されていた所為で――どうせ、無理だろうと思っていた所為もあって――脳の片隅に追いやられていたが、これは非常に意義深い事だ。早々に行き詰まりを感じ始めた俺の思想を深める一助となるかもしれない。不思議と、そんな予感があった。
もっとも、天海の行動が解せないのは常。だが、こと蕃神信仰に関しては度を越しているし、それを誤魔化そうともしていない。
蕃神信仰がこの地球で表に出てきたのは最近だが、それ以前から密かにMCG或いは天海と内通し、〝
問題は、それらの事実が発覚したとして、「俺に何が出来るのか」という点だ。
一体、なにをすべきなのか。
告発すべき? いや、しかし何処にどう告発するというのだ。MCG内に於けるREDの発言力は極めて弱い。動かぬ証拠で固めたとしても、狂人の戯言として処理されてしまう
では……討つべきか? いやいや、無理筋だ。正直に白状すると勝ち筋が全く浮かばない。普段、俺たちが会うのは分体だ。殺すには本体の居所を捉えなければならないが、その本体は世界各地を忙しく飛び回っている上、此方の害意を知れば巧妙に隠すだろう。思えば、初めて相対した時が最大のチャンスだったのだ。
そもそもの話、指針すら定まらぬ現状で『その時』を迎えた場合、果たして俺は決断できるのだろうか……くそっ、どうすれば……。
脳みそと石塊を交換されんじゃないかと思うぐらい、思考が重く、鈍い。
進むべき道など分からない。
俺には何も無いんだ。主義も主張も無い。それを支える
このままでは、蕃神信仰に全てを委ねる事になりかねないのでは……。
ふっと脳裏に浮かんだ恐ろしく危険な展望は、不意に茂みの向こうから響いた足音にかき消された。
俺は、すぐに気を取り直して身構える。左手を懐の銃へ、右手を前方へ。そして、規定に従い茂みの奥へ声を張る。
「所属を言え!」
「情報部……1160、RED」
返ってきたのは若い女声による「正答」だった。警戒の構えを解いて待つと、幾許もなく見覚えのある女が顔を出した。
「あら、久しぶりね」
「
望月さんを唆して麻薬カルテル『MUL.APIN』を作り上げた影のドン。その婀娜っぽい笑みを見ていると、艶めかしい過去の悪感情がムラムラと湧き上がってくる。
“懐かしくも気まずい相手”……。
……ん? いや、ちょっと待て、俺とコイツは――。
「初対面の筈? ふふっ……」
コイツ、心を――!?
思わず視線を逸してから、「そうじゃない」という事に気づく。コイツの能力は人事ファイルで確認した事がある。瞳を介して対象の主観認識へ干渉し、劣情を煽るだけの能力。まかり間違っても読心なんて芸当が出来るわけ無い。
「全く、酷いわ。私のイタイケな
「さっきから、何を言って――」
すると艶島は、返事の代わりに胸元から強烈な既視感を催すシルバーの金属片――
コイツ! 蕃神信仰のクローンなのか――!?
「
違う、と反射的に否定しかかったが、声になる前に喉元で詰まってしまった。思い返してみれば六道さんも
「……少し、安直すぎたかしら。でも、十二林さんもそうだし、六道ちゃんもそうでしょ? あと他は……誰がいたかしら……」
だとすると、
俺という無銘が【四藏匡人】となった瞬間は覚えている。あの時だ。土砂降りの中で瞳さんと初めて出会った、あの時で間違いない。けれども、そこに至る経緯も、そこからどのようにして名付けられたのかも、全く思い出せないのだ。もし、三つの例が蕃神信仰に埋め込まれた何らかの命令、情報が作用した結果ならば、十中八九俺なのだろうが……くそっ、どうして思い出せない!
「まあいいわ。さて、本題に入りましょうか。アナタは記憶が戻っていない様だけど、私達クローンは本来ならMCGに所属した時点で『使命』の一部を思い出すの。『
阿婆擦れの言葉を聞いた所為で、先程、思い浮かべてしまった展望が、否定しきれない現実味を伴って急速に蘇ってくる。
このままでは、蕃神信仰に全てを委ねる事になりかねないのでは……。
――ふざけるな!
奴等がどうした。ただのイカれた自称神学者集団だ。その目的だって今や大部分推察できている。
〝
その語義は、こっちの地球でいうニューエイジ用語、『(惑星単位の)次元上昇』と同じだろう。
しかし、それに俺がイマイチ乗り気じゃないのは、その先が全く持って不透明だからだ。これは双子から蕃神信仰の裏に
そもそも、それを見出した経緯すら不明とあっては、自然科学を信奉する現代文明人には到底受け入れ難い。考えてみるに、ジェジレㇿの奴が俺に言った事と言えば、「人類を救う」だとか「宇宙を救う」だとか、果ては「未観測の地球外知的生命体の未来永劫に渡る存在可能性を救う」だとか……神辺さんとどっこい、同レベルじゃないか。あの実験だって、何も変わっていない現状と、目の前の阿婆擦れの勧誘をみれば失敗に終わったのだろう。仮に成功していたのなら、今の第三次元宇宙が窮状にあろうとなかろうと、それらしい報告、例えば有り難い奇蹟やら五感を超越した啓示ぐらいはあってしかるべきだ。――そう、あの上位者の様に!
しかし、そんなものはない。だから、阿婆擦れは成否すらも分からず得体の知れぬ〝
舐めるな! そういう訳だから、怪しげな新興宗教に全てを委ねるつもりはこれっぽっちもない。神辺さんを間近で見ている俺は、余計にそう思っている筈……なのだが。
……あの時に見た、魅せつけられてしまった上位者の圧倒的存在感は、今も俺の脳裏に焼き付いて離れない。そして、だからこそ、存在すら不確かな『
「ま、名前の事は置いといて……と」
その時、声につられてふと目線を上げた俺は、艶島九蟠――
瞬く間に全身の血液が落下し、下半身のある一点に集まってゆく。慌てて目を逸らし、耳を塞いでその場を離れようとするも、
「抵抗しないで」
俺の行動より早く放たれたその一言で、全てが未遂に終わってしまった。足は縫い留められたかのように重く、手も腱という腱が切れてしまったかの様にピクリとも動かない。不幸中の幸いだったのは、視線だけは少し下にズラせていた事だ。そのお陰で、奴の眼は今の視界内には無い。これ以上、侵攻することはない。
「という事だから、私の能力で再洗脳して『使命』を思い出させてあげようって訳ね」
「お前っ、能力にロックをかけられて――」
「解いてもらったのよ、情報部にも入り込んでいる間者の手引でね。この若干余裕のある最後の『送迎』を用意したのも、間者の手配よ」
一体、蕃神信仰は何処までMCGに入り込んでやがるんだ。
そんな横道を考える間もなく、余裕ぶった笑みを浮かべる
というか、“前に戦ったときよりも能力が強力になって”……違う! 俺は戦っていない。全部、錯覚なんだ、気合を入れて塗り替えればいい。俺は失敗作たちの精神干渉にもギリギリで耐えたじゃないか!
殺してやる。
殺す、殺す、殺す、殺す、殺す……。
ただ、その一念だけで心中を埋め尽くしてゆく……すると、左手が細かく震え始めた。
「ねぇ……もう一度、私の眼を見て……」
「殺す、殺す、殺す……」
「強情なヒト」
その間にも、奴は歩みを止めず、遂に息と息が触れ合うほどの近距離にまで迫ってきた。同時期、それに連れて、左手の震えがどんどん大きくなってゆく。
「左手が震えているわよ。ねぇ……」
奴が、徐に身を屈め、俺の顔を覗き込んで、覗き込んで――
「怖いの?」
目が合った。
しかし、予想に反して、その時に俺の身体に起こったのは、命令されていた「抑圧」とは真逆の「解放」だった。左手に溜まりきった力が弾けて、言い知れぬ虚脱感と共に左手首から幻出した黒い短剣が、奴の柔肌を紙切れのように容易く引き裂いた。
「はぁ……はぁ……っ!」
血飛沫を前面に浴びつつ、奴が崩れ落ちてゆく様を見送ると、脳内麻薬が音のないクラッカーを鳴らして煥発し、想像しうる限りでは最上の達成感が全身を満たした。しかし、まだだ。浸っている訳にもいかず、俺は懐から
「は、は、ははっ……。これが――何だと言うんだッ! 俺は……俺だけのものだ! 俺の主義も主張も、礎も、正義も……悪も……これから俺が決めてやる! それを決めるまで何処に身を置くかも、全て俺が決める事だ!」
思い切り振りかぶり、適当な方角へ向けて
「アーッハハハハハハ!」
座標を掴み、R-1地区に戻って、道端に待機させていたタクシーに乗り込む。
待たせすぎてしまっただろうか。後部座席から俺を見る望月さんの顔は、待ち倦ねてしまったものの様に見えた。
「遅れてゴメン。行こうか」
「いえ……って、四藏サン! それ……!」
「ん、ああ……」
大袈裟に息を呑んだ望月さんの視線の先は、俺のMCG制服に付いた艶島九蟠の血液の様だった。急いでいたからそのままで来たのだが、やはりマズイだろうか。しかし、今は説明するのも、何もかもが面倒な気分だ。色々とあり過ぎた……。
「少し揉め事があって、それで遅れたんだ。堂上さん、現場に向かって下さい」
さも何でもないことの様に強引に押し切ってみると、望月さんは「そ、そうですか……」と言ったきり、深く追求してくる事は無かった。
俺は、これから向かう現場の情報を再度タブレットで確認した。それは、愛知支部から派遣されて来たもう一人の助っ人、
「四藏サン。私、待っている間に身上情報を読み返してて気付いたんデスが……だいぶ揃っている割に大事な《異能》と動機だけがポッカリ抜けてマスよね。半七さんが身を持って一部を教えてくれましたから良いデスが……なにか、意図的なものを感じマス」
望月さんの指摘はもっともだ。俺は頷いた。
「それもあるかもね。けど、実際の所、大概は『調査対象がRED判定された時点で、情報部は手を引くから』だね。その後、詳細な調査ごと俺たちに丸投げされるから」
「それは……酷いデスね……」
「まあ、情報部に属する様な
伊秩から送られてきた情報をざっと一読したところで、運転手の堂上さんが到着を告げる。顔を上げて窓から外を見ると、正面に住宅街の中にブルーシートで囲まれた水路があった。
俺は、すぐに望月さんを連れ立ってタクシーを降り、見張り番の様にそこに立っていた警官に話しかける。
「MCGの者です。ああ、この血は別の死体を触った時に付着したものですから、お気になさらず」
職員証を提示しながら先手を打った。それが功を奏したか、警官も望月さんと同じく多少面食らってはいたものの、特に咎められることもなく中に通された。
すると、早速お出迎えである。
「オイオイオイオイオイ、おっっっせぇじゃねぇかよ。四藏さんよぉ、しかも女連れかい。良~い御身分でござぁっすねぇ、よぉ!?」
色濃い疲労を目元に刻んだ伊秩が、苛つきを爆発させながら詰め寄ってきた。
理解はできる。彼は、昨日、慣れない事務業務を通常通りにこなしてからぶっ続けで
どう弁明し、諌めたものかと考えていると、隣の望月さんが呆れた風に伊秩の言葉尻を捕まえた。
「『女連れ』って……半七さん、私のコト見覚えてないの? 私、
「んん~?」
伊秩は尋常ならざる目で望月さんの顔をググッと覗き込んだ直後、「あっ」と、さも今気づきましたという表情で勢いよく頭を下げた。
「ホントだ、よく見たらボスじゃないスか! 雰囲気が随分と違ってたもんで、気づきやせんでスミマセン! うっす! ご無沙汰してやす!」
「もう、ボスとかそんなんじゃないから……。別にいいんデスよ、頭なんて下げなくても」
望月さんは、過去の麻薬組織に関することで引け目でも感じているのか、しおらしく言った。しかし、顔を上げた伊秩の表情は変わらず頑ななものである。
「いえ、自分、ケンカに負けた相手には敬意を示すって決めてるんスよ。それすら失くしちまったら、俺は俺でなくなっちまうんで」
……チンピラ風情が言うじゃないか。柄にもなく、他人の思想に素直な共感を抱いてしまった。そうだ、お前のルールはお前が決めろ。俺もそうする。
「それじゃ、ボス、取り敢えず現場まで案内します」
「うん、宜しくね……って、四藏サン、なにボーッとしてるんデスか? 半七さん、先に行っちゃいマスよ?」
「……ああ。いま……行くよ」
伊秩は、短い案内の道中で夜に見たものを改めて手短に説明してくれた。
日も落ち、陣場くんから仕事の概要を伝えられ、見張りを交代した伊秩が
やがて、彼女はとある居酒屋に入っていった。「本日貸切」そんな看板がデカデカと立てられているところに、躊躇もみせず。しばらくして、居酒屋の中が騒がしくなったかと思うと、中に居たお客さんらしき人々が大層おびえた様子で居酒屋を飛び出してきた。そちらも気になったが、その後にゆっくりと
数時間後、
「ここが、その現場です。俺は尾行を優先して助けませんでした。能力の話もしたでしょう? 正直、勝てる気もしなかったんで。もちろん、警察と救急には連絡しましたがね。その後、標的は徒歩で家に帰りました」
「そうか。ありがとう、助かったよ」
後の事は周りの警察にでも聞いて下さい、とだけ言い残し、伊秩はフラフラと何処ぞへ消えていった。お疲れ様だ。
「みんな……MCGでも頑張ってるんだ。あ、四藏サン、そういえば山川さんは今どうしてるの?」
「山川さん……ああ、蕃神信仰から逃げてきた奴ね」
俺が“岸さんと共に戦った男”……だったか? いや、それであっている筈だ。たぶん、そうだ。
「確か、情報部に拘束されてるんじゃなかったかな。で、その身柄をどうこうする権利は別地球α出身という事で近衛旅団が持ってた様な……うーん、今どうなってるのかは調べてみないと分からないな。調べても、機密だったら無理かな」
「そうデスか……」
「後で調べてみるよ。ま、俺たちは俺たちでやるべきコトをやろう」
まずは現場を見ようと促した。
水路の水位はさほど高くない。ざっと見て、成人男性の膝にもみたないくらいだ。ここで溺死するなんてのは幼児でも難しいだろう。死ぬにしても、底の藻に足を取られて不幸にも頭を強く打ち付ける、とかになりそうだ。
しかし、付近にいた警察の人の話によると、死因は紛れもなく溺死で、遺体は水路の中に横たわっていたらしい。そして、水路にあった複数箇所の黒ずみを指差し「これは血痕だよ」と教えてくれた。恐らく、水を飲んで暴れた時か、突き落とされた時に手や足を打ち付けたのだろう、と。今は乾いているが、周囲はずぶ濡れだったらしい。水路から飛び散った水飛沫と推測される。
隣で話を聞いていた望月さんが「うっ」と口元を押さえた。俺が「大丈夫?」と聞くと、彼女は頷いたが、明らかにしんどそうだったので、現場を汚されないようにコンビニのビニール袋を手渡した。
警察の人と別れて、俺と望月さんは死体のない水路を覗き込んだ。
「望月さん。普通さ、死なないよね。こんなところで。幾ら数時間全力疾走をした後って言ってもさ、浅すぎるよ。普通にしてたら溺れないよ、寝ぼけてたってね」
「わ、私も同意見デス。そう思いマス……」
「つまり、被害者は死亡した時、普通じゃなかったワケだ。これで、もうだいぶ能力が見えてきたね」
「え、そうデスか? うっぷ……」
随分と……察しが悪いな。先輩をヨイショする為にワザと言ってるのか? なんて、一文の得にもならない疑いを内心でかけつつも、懇切丁寧に説明してあげようとした時、ちょうど愛知支部の事務員に頼んでいたデータがタブレットに届いた。
今回の被害者の詳細な身上情報と、ここ一年の間に似たような転落・水難事故で死んだR-地区の住民の身上情報だ。俺は、望月さんへの説明より、そっちのデータを読み上げることを優先した。まずは今回の被害者男性のデータから。
「今回の被害者は
「服役?
「
彼が最初に犯したのは認知症の老婆だった。彼は、老婆と家が近所で多少の付き合いがあり、認知症からくる徘徊癖があるのを知っていた。ある時、老婆が家をこっそり抜け出して徘徊に出た。それを虎視眈々と狙っていた彼は、老婆を自宅に引き込み、犯した。これは示談が成立し、不起訴となった。
次に犯したのは小学生女児。前回と違い衝動的な犯行だった。朝、一人で通学する
もし、この
「……で、これが他の
義憤にかられて、という正義感の溢れる動機ならば、高
「……酷いデスね」
俺のタブレットを覗き込みながら、望月さんが呟いた。
「こんなにも性犯罪者がいるなんて……」
「あ、そこなんだ。ヤク中が言うねぇ」
「そ、それは関係ありません。強姦は重罪デス!」
そんなものなのか。と俺は他人事のように思ってしまった。
俺とて、香椎さんに絡まれたことはある。共同生活中に、何度かちょっかいをかけられて疎ましく思った。しかし、それだけだ。
俺には、三年分しか人生経験がない。当然、性の経験もない。知識としては把握しているが、感覚的には分かっていない。ボコボコに殴られると女の気持ちなるとか言うが、俺は死にそうになっても良く分からなかった。
「じゃあ、教えてもらおうかな? 望月さんに」
女性視点から感じるであろう「嫌悪」と、犯される「恐怖」を。
知らないのは恥ではない、知ろうとしないのが恥である。灰崎さんは常々そう言っていた。誰かの残した言葉らしいが、金言であると思う。
だから、俺は忌憚なく説明を求めた。
それはたぶん須藤史香との『交渉』にも、役立つだろうから。
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