第25話 クリスマス・イヴ
箱根旅行から程無くしてのクリスマス・イヴの日。
明日香は、慎太郎に呼び出され大学に来ていた。
以前から、この日は慎太郎の部屋で二人静かに過ごそうと決めていた。しかし昨日のお昼に連絡があり、明日香は大学構内のあの屋外テーブルに
「急にごめん」
慎太郎がそう言うと、途端に重い沈黙がその場を包み込んだ。
構内に他の人の気配は全く無い。沈黙は当人たちで破らねばならない。
急な予定の変更と彼の態度に、明日香は不穏な空気を感じずにはいられない。
内心怯え、今ある沈黙からは恐ろしさすら感じる。
だが、彼が言うまで待つ――と明日香は決めていた。
「手術の話、恭子さんから聞いた」
重く響く彼の言葉に、明日香は「うん」と静かに応える。
「本当に手術受けないつもり?」
「うん」
「それは俺のため?」
「……」
明日香は答えなかった。
すると、彼は更に質問を重ねた。
「俺がナオヒトだから?」
「……」
明日香はまたも答えなかった。
「俺は、明日香は手術を受けるべきだと思う」
明日香は何も答えない。
――その代わり、問い返した。
「慎太郎は、私の傷――蓮の様な傷が治っても、私を好きでいてくれる?」
「……」
今度は彼が、何も答えなかった。
彼には答えられなかった。
それが答えだった。
「……そう」
明日香は慎太郎の答えを理解した。
そして、質問に対してようやく、真っ直ぐと力強く答える。
「手術は受けない。私には……慎太郎が居なきゃダメなんだよ」
自分がそう答えると彼はわかっていた――そんな気がした。
そして同じ様に、明日香にも彼が出す答えが分かってしまっていた。
「……少し距離を置こう」
それ以上の言葉は無く、再びその場所は沈黙に満ちた。
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