第50話 技術課題

 日本政府は理系教育推進に舵を切った。リケダン・リケジョを養成し、モノづくり大国の復権を目指している。理系畑出身の鷹山が口を酸っぱくして発言してきたことがようやく実り、江馬総理が重い腰をあげた格好だ。


 北伊勢市は理系教育が盛んで、建設業・自動車産業に就くものが多い。製造工場も多く、手が器用な県民性である。

 北伊勢高校では、男女ともに技術の授業が必修だ。営業や経営の道に進もうとも、現場をわかっていないものは大成しないとの方針である。そのまま大学に行かず、エンジニアになる者も多数だ。


 今年度の北伊勢高校では、技術の課題が「理想の建築物」だった。小学校の夏休みに工作の課題で出されたことがあるだろう。立派な建物を作ってくる生徒もいたが、あれはいわゆる、組み立てキットと呼ばれるものである。技術教師の杢生もくおたくみは、このズルをしないように始めに釘を刺した。生徒たちからため息を漏らす者もいたが、仕切り直して構想を練り始めた。




「イエスくんは何をつくるの?」

 マリアが興味深そうに聞く。

「名古屋城にしようかなと思ってるよ」

「イエス、どうせなら桑名城がいいよ。僕らの地元だし。

 北伊勢市は三重県北勢地区の市町村が合併して出来た、新しい都市である。桑名市はその合併の中心となった市だ。

「うむ、それもいいな」


「マリアは?」

 メシヤがマリアの才能を知った上で問う。

「へっへーん。あたしはベルサイユ宮殿をモチーフにした、夢の家を作ってみせるわ」

「まあ、素敵ですわ。マリアさま」

 マリアは小さい頃から相当苦労したらしく、家の手伝いや秘密のアルバイトなど、手を使うことには慣れている。

「そういうレマちゃんは?」

「私はお姉さまとの合作で、イスラエルの第三神殿を作りますわ」

「わたしはデッサンなら得意なんだヨ!」

 小さい体で得意そうに胸を張るエリ。


「うおー、みんなすごいな」

 メシヤの目が爛々と輝く。

「あんたはどうするのよ?」

 マリアが興味半分・不安半分で聞いた。

「僕は聖ワシリイ大聖堂をベースに、市民の憩いの建物を造るよ。宇宙からの来訪 客にも目立つようにね」

「・・・・・・あんたらしいわね」

 口元がるマリア。


「よーし、みんな造るものは決まったかー」

 技術教師の杢生匠が声をかけた。まだテーマも決まらずぶつぶつ言う者もいたが、北伊勢高校に進学した生徒は勉強のためだけでなく、手に職をつけたいと希望する者が集まっている。東海地区がものづくりの盛んなことと無関係ではない。

「材料は何を使ってもいいぞー。ただし、既成品の組み立てキットをそのまま提出したら、大減点だぞ」

「はーい」

 生徒の温度差はまばらだったが、杢生に指導してもらうために、人だかりが出来ていた。


 街並の最小構成単位である家。その中には国民の最小集団である家族がある。住みよい家は間違いなく、その住人にプラスの作用をもたらす。いては、明るいまちづくりに繋がる。イエスの愛読書ではないが、「家造りはひとづくり」なのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る