第40話 とけていく謎

「だが」

「?」

「そいつの力は、そんなものじゃない」

二刀の聖剣をまじまじと見つめるメシヤ。


「君はそんな強大な力を手にして、世界各国のあらくれどもからなぜ狙われないのか考えたことがあるかい?」

「そういえばそうだね。まさか謎の組織に守られてるとか?」

「当たらずといえども、遠からずだな」

「確かに。聖杯のときはひと騒動あったけど」

 マナが同調する。

「すまんな。あれは私の部下だよ」

 大統領がそういうと、マリーン・ワンから一人の男が出てきた。

「ダニエルさん!」

「ふふ、そういうことさ」


「メシヤくん、さきほど君が自分で言ったように、君の周りには何重ものプロテクトがかけられている」

「僕に?」

「君の出生の秘密も、三重で生活を送っていることも、私とここで出会っていることも、ネット上で君の深層情報にたどり着くことは出来ない」

「出来すぎですよ。僕に出生の秘密なんてないよ。なあ、マナ」

 マナは、兄に問われた瞬間、急に神妙な面持ちになって黙りこくった。

「マナ?」

「お兄ちゃん、実は・・・・・・」

「妹ちゃン!」

 エリがマナを制止する。裁紅谷姉妹も何か事情を知っているようだ。知らぬはメシヤばかりなり、か。


「まあ、いいさ。僕は僕だ。それ以上でもそれ以下でもない」

 深く追及するようなことはしないメシヤ。それをしてしまうと、マナと一緒にいられなくなるような気がしたから。

「危害を加えることはしないだろうが、君を利用しようとする輩は、方々からコンタクトを取ってくるだろう。そこの諜報機関ロサドの二人のようにね」


「!!」

 大統領に視線を向けられた裁紅谷姉妹は大いに狼狽した。

「違うノ! メシヤ! 私達ハ・・・・・・!」

「黙っていて申し訳ございません、メシヤさま・・・・・・」

「利用だなんテ・・・・・・! 最初は任務でメシヤのお目付けを言い渡されてたけド・・・・・・。メシヤが嫌なヤツならとっくに祖国に帰ってるヨ!」

「お目付けと云うと人聞きが悪いのですが、正しくは守護です。イスラエル政府からは、あなたを最大限保護するように申し付けられております」

「気にすることないよ。それを聞いても、エリとレマへの俺の対応は何も変わらないよ。俺たちは北伊勢高校1年G組のクラスメイト。そうだろ?」


「メシヤ・・・・・・!」

「メシヤさま・・・・・!」

 レマはかろうじて堪えたが、エリは目に涙を浮かべている。メシヤが怒って相手をしてくれなくなったらと、その不安が日に日に増大していたのだ。まだ15歳の少女には、酷な任務だった。


「ふふっ、今日のところはこれで失礼するよ。私も表向きは一国の大統領だからね。もっとも、君と会うことは日本の首相と会談するよりプライオリティは上だが」

「大袈裟ですよ、ロックフォーゲル大統領」

「では、また会おう。リトルブラザー」

「リトル・・・・・・ブラザー?」

 ダニエルも目だけでメシヤに挨拶すると、ボウスハイトの後をついて専用ヘリに乗り込んでいった。

 メシヤはどっと疲れたのか、脚が三重に折れ曲がるように崩れ落ちた。

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