第6話 萌えてヒーロー

 メシヤはサッカー部に所属している。家の手伝いでそんなには顔を出せないが、部員からはそのプレースタイルを買われている。「毎日来れないのか?」と、キャプテンから懇願される日々だ。

 メシヤは体格に恵まれているわけではない。中肉中背、身長も体重もごくごく平均的な日本人のサイズだ。ただ筋肉はしなやかで、弾力がある。マッチョではないが、無駄のないシルエットをしている。


 メシヤがこんな提案をしたことがある。

「サッカーで一番優れているフォーメーションは3-4-3ですよ」

 大空キャプテンは、今の主流の4-2-3-1を採用していた。これはどちらかというと守りに比重を置いた布陣だ。いかにも日本的とも言える。

「大空先輩、確かにディフェンスには適していますが、このサッカーは楽しいですか?」

 大空は痛いところを突かれた。

「3-4-3で攻めている間はディフェンスをする必要がありません。両ウイングがいるので、相手のサイドバックが上がってくることも牽制できます」


 メシヤはさらに続ける。

「4-2-3-1で引いて守っていたら、相手の攻撃時間も自ずと増えます。カウンター狙いだけのオフェンスってつまらないですよ」

 血気盛んな体育会系ならメシヤは袋叩きに遭いそうだが、大空キャプテンがいたことに救われた。彼は聞く耳を持っていた。

 大空キャプテンは北伊勢高校サッカー部の決定力不足に悩まされていた。そこへこの男が現れた。希望のポジションを聞くと


「レフトウイング」

 と即答した。このポジションは点取り屋・テクニシャン・ファンタジスタとありとあらゆる要素が詰まった花形のプレイヤーを生み出してきた。

 優れたレフトウイングのドリブルは進路も先が読めず、シュートも突然撃ってくる。パスは必ず意図があり、貪欲に得点に絡んでくる。サッカーはこんなにも面白かったのかと酔わせてくれる。それがスタープレイヤーの証だ。

 メシヤは学校中の生徒から変わり者で通っているが、サッカーで汗を流す姿に見惚れる隠れファンも多い。隠れているので、メシヤは気づいていないのだが。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る